「姫星(きてぃ)」「礼(ぺこ)」など、当て字や字のイメージだけで読ませる個性的な名前「キラキラネーム」が増えている。問題視されることも多いが、こうした名前を付けたがるのは何も親だけではないようだ。
インターネット上には、親戚やママ友から「キラキラネーム」を「ゴリ押し」されて悩んでいるとの書き込みが見つかる。2013年12月13日には、親戚が姉夫婦に「優万旗(やんた)」と付けるよう提案したというスレッドが立ち、注目を集めた。
「うちの子が『イブ』だからお宅の子は『アダム』にして」
書き込み主の説明によると、姉夫婦はもともと「聡(さとし)」という名前を付けようと考えていた。聡明な子に育ってほしいという意味を込めていて、画数もよかったのだという。しかし、親戚一同は首を横に振った。「そんなありきたりな名前をつけるなんて」「名前は親が子供に最初にプレゼントするもの。そのプレゼントがよくあるものとは…」と口々に反対し、書き込み主と姉の両親ですら「もうちょっと今風のほうがいい」と意見したというのだ。
そこで親戚が代替案として持ってきたのが「優万旗」――なんとこれで「やんた」と読むという。「優(やさ)しい」の「や」、「万(まん)」の「ん」、「旗(はた)」の「た」を取って「やんた」と読ませるものだと推測される。ちなみに「やんた」という言葉は東北地方の方言で「いやだ」という意味があるようだが、「優万旗」に込められた意味は書き込み主にも分からないそうだ。インターネット上では、あまりにもありがた迷惑な親戚の行動に「親戚の縁とサヨナラバイバイするしか無い」「姉夫婦にげてー!」「優万旗は間違いなくいじめられる」「まともな命名に向かっていちゃもんはありえないwww」などと批判的なコメントが数多く寄せられている。
キラキラネームにまつわる有名エピソードのいくつかはバッシングのための作り話だという説が浮上していることから、今回もネタだという可能性は否定できない。だが、インターネット上では周囲に「キラキラネーム」を勧められて困っているという例は他にも見つかる。2012年には、妊娠中の女性がインターネット上で悩みを告白していた。夫や両親と決めた名前候補を近所のママ友達に話したところ、それを耳にしたのか、近所に住む子持ちの女性が自宅までやってきて「うちの子が『イブ』だからお宅の子は『アダム』にして」と突然提案してきたのだという。漢字は「亞堕夢」だ。後日、ママ友達に話をきくと、この「イブママ」は他の妊娠中の女性たちにも同様に「亞堕夢」を勧めていたのだという。
日経Web調査「親の自由」との回答は11.7%
1990年代半ばごろから増え始めたという「キラキラネーム」は、ここ10年で急増した。背景にあるのは、「個性のある子に育ってほしい」という親心の表れだと指摘されている。一般的にも「読み方」へのこだわりは強まっているようで、2013年に生まれた赤ちゃんの名前で最も多かった男の子の「悠真」は「ゆうま、はるま、ゆうしん」、「結菜」は「ゆいな、ゆな、ゆうな」とさまざまな読み方になっている(明治安田生命調べ)。「読み方に個性を」との感覚が現在の親世代で当たり前となっているのであれば、そこから飛躍して「これからの子には世界に一つだけの名前を」という発想の親戚や、「あなたの赤ちゃんもうちの子のような個性的な名前に」と勧める同世代の母親がいてもさほど不思議ではないだろう。
ただし「学校でいじめられる」「就職活動で不利になる」との批判もあり、世間の目は冷たい。日経新聞電子版が今年実施した意識調査では、「子供にキラキラネームを付けること」について62.7%が「親が自粛すべきだ」と答え、25.7%が「当て字的な読みは役所が受理を拒むべきだ」と回答している。「親の自由だ」としたのはわずか11.7%にとどまった。また8月にはこども病院の救命医が患者取り違えの危険性があるとして、ツイッター上でキラキラネームの自粛を訴えたことも話題になった。
命名研究家の牧野恭仁雄さんは自身のホームページで、「命名の専門家に言わせていただくなら、珍奇名前(編注:『珍しい奇抜な名前』の略)と個性は何のつながりもありません」とキラキラネームに「個性」の願望を込める親たちにくぎを刺す。名前の読み方に関する法律はないが、それは名付け親の良識に任されているからだとして、自由にふりがなを付ける傾向に疑問を呈す。「名前はその社会で広く、永く使われるものですから、名づけの際はつねに社会人としての意識、他人に迷惑にならないような気遣いが必要です」と主張している。