2010年に著した『デフレの正体』(角川oneテーマ21)がベストセラーになった日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員が、NHK広島取材班とともに『里山資本主義』(同)という新書を今年の夏に発行している。前著と同じく、行き過ぎたマネー資本主義の批判を含んでいる。
山の雑木を薪にして、井戸から水を汲み、棚田で米を、庭先で野菜を育てる――。長年にわたって里山で積み重ねられてきた暮らしを再評価する本書は、「田舎暮らしのススメ」のように紹介されることもあるが、それ以上の可能性を感じさせる主張も多く込められている。その内容を、あらためて著者に分かりやすく解説してもらった。
最優先すべきは若い人たちの「人間らしい生活」
――藻谷さんは本書の中で、少子化の一因は「マネー資本主義の未来に対する漠然とした不安・不信の表れ」と指摘されています。これはどういう関係があるんでしょうか
藻谷 出生率が下がっている理由の一つは、現代日本の都市で企業に勤めていては「普通の家庭生活」を営むことが困難になっている、ということです。若い人たちがマネー資本主義にこき使われ、生産性をあげることだけを求められてガチガチに働かされている。これでは「子どもを産むな」と強いているのと同じことです。
少子化とは、その地域の人たちが将来に対して刹那的行動をとったり、地域社会に対して投げやりな考え方を持っていたりすることと関係していると、私は見ています。マネー資本主義がもたらす「かりそめの繁栄」が続かないと考え、未来を信じられない人たちが子孫を残すことをためらうという一種の「自傷行為」が少子化ではないでしょうか。
――確かに「ブラック企業」という言葉が新語・流行語大賞に選ばれるなど、若い労働者を中心に企業での働き方に対する激しい不満が噴出しています
藻谷 マネー資本主義は、要するに「会社に入って一生懸命働いてカネを稼ぎなさい」という考え方です。その観点からブラック企業批判に対し「甘えだ」と反論する人もいますが、甘えているのは、若者の生活を食い潰すビジネスをいつまでも続けられると考える経営者の方でしょう。
甘ったれているのは、賃金よりも配当を増やせと主張する株主も同じです。「超カネ余り」の日本では、お金を出しているだけの資本家や株主は偉くも何ともありません。足りないのは人材であり需要なのですから、配当しているヒマがあれば賃金を上げ消費を増やすべきです。
――家庭生活を営むヒマがあったら働け、と言っている株主の方が甘ったれていると
藻谷 生物としての生殖や家庭生活よりも会社や労働の方が優先され、その結果どんどん人口が減って経済が縮小しているというのは、おかしな話です。マネタリストたちも金融緩和をすれば経済は回っていくなんて言っているけれども、人口が減れば消費は滞ります。若者の暮らしの圧迫は、マネー資本主義の自殺行為です。
若い人たちが人間らしい暮らしを営めるようにすることが、少子化の根本的な対策であり、経済成長を含む日本の社会的課題を解決することにもつながります。