埼玉県立近代美術館が2013年12月26日、収蔵品2点の紛失を発表した。
26年も前から「行方不明」だと分かっていたという。長らく放置されていたのは、なぜなのか。
そのうち出てくると思われていた
さいたま市の北浦和公園内に1982年に開館した「埼玉県立近代美術館」は、ピカソ、モネ、シャガールといった海外の巨匠や、日本の有名現代作家の作品をコレクションしている。ユニークな企画展が多いことでも知られ、今年4月から5月にかけては、展示室はもちろん、ロッカーや受付など館内の至るところで収蔵品約1000点を公開する大規模企画展を行い、注目を集めた。
そんな地元でも愛される美術館で、所蔵する作品のうち2点が紛失していたことが明らかになった。日本創作版画の第一人者といわれる故・平塚運一氏の木版作品「斑鳩寺初秋」と「議会図書館ワシントンD.C.」で、評価額は合わせて14万円相当だという。いずれも1986年8月に生前の平塚氏が寄贈したものなのだが、発表によると、翌年には見当たらなくなっていたというのだ。
埼玉県近美に取材をすると、依田英樹副館長は「お恥ずかしい限りですが…」と口を開き、長らく問題が放置されていた経緯や理由を語った。87年の夏、寄贈作品を年報に掲載するために当時の学芸部長らが作品を照会しようとしたところ、見当たらないことに気付いた。ところがその場では、「どこかにあるだろう」「そのうち出てくるのでは」という認識があったという。というのも、所蔵庫の中には開館前後に所蔵した大量の美術作品があり、開館から5年経っても整理が追いついていなかったのだという。整理過程で見当たらない作品は他にもいくつかあったが、いずれもすぐに見つかったそうで、現場では平塚氏の作品についてもどこかに紛れ込んでいると捉えられていたらしい。
「整理が落ち着いてからも総点検していなかった」
ところが、整理が一段落してからも作品は「行方不明」のままだった。そのことは企画課長や学芸員らも把握していたが、本腰を入れて探すことはなかった。そして月日は経ち、今年7月。大規模改修工事を前に全収蔵作品を総点検したところ、依田副館長は2点が行方不明だということを知った。その後、関係者から聞き取り調査を実施した結果、「紛失」と判明し、12月20日には平塚氏の遺族に謝罪と説明を行ったという。副館長は「これは私どもの怠慢なのですが、整理が落ち着いてからも総点検という形でしらみつぶしに探すことをしていませんでした。大きく反省しているところです」と話す。
作品は現在、どこにあるのだろうか。副館長によると、当時は「そのうち出てくる」という認識があった一方で、行方不明とわかる前に行った大掃除の際に捨ててしまった可能性も否定できないものだったという。所蔵庫の中には梱包材や茶紙などが大量に放置されていたため、86年秋から冬にかけてそれらをどんどん捨てていったのだ。副館長は「大掃除で捨てた可能性は、高いと思います」と残念そうに語った。
埼玉県近美では、これまで所蔵品数を3099点としてきたが、今後は3097点になる。なお、平塚氏は紛失した2点に加え、同じときに5点を寄贈していた。展示されたことがあるのは1点のみで、あとは所蔵庫で大切に保管されているという。