自然は脅威になる一方で、恵みをももたらす。新巻鮭の発祥の地とされ、サケとともに発展してきた大槌町の沿革をたどると、そのことが良くわかる。
「おおつち鮭(さけ)まつり」が2013年12月1日、大槌町の大槌川河川敷であり、町内外から町の人口の3分の1に当たる、約4000人が参加した。大槌川を仕切って放流されたサケのつかみどりが、震災後、初めて行われ、100人が挑戦。大人も子供も奮闘し、1人1尾のサケを持ち帰った。晴天に恵まれた初冬の河川敷には歓声がこだまし、海の恵みに感謝する一日になった。
つかみどりは、参加費無料で先着100人。祭りの目玉とあって、早朝から整理券に長い列ができ、開始早々、受け付けが締め切られた。参加者は軍手、胴長靴を借り、大槌川の浅瀬につくられた天然の生簀(いけす)で、放流されたサケを追いかけた。1組の制限時間は5分。勢いよく泳ぎまわるサケをなかなか捕まえることができず、悪戦苦闘する参加者もいた。
盛岡市内の主婦大隅聡子さん(39)は、盛岡市立杜陵小4年の長女はなさん(10)、3年の次女うたさん(8)、長男元(げん)君(5)と訪れた。つかみどりには、はなさん、うたさん、元君が挑戦。「サケは重いし、ぬるぬるしていて大変だった。でも楽しかった」とうたさん。
祭りでは、サケ汁が無料で振る舞われ、関係者が仕込みに追われた。地元産の食材を使ったフードコンテストもあり、10種類のメニューが開発された。試食、投票の結果、1位に「イカハンバーグ」、2位に「しらすの生ぶっかけ」、3位に「博士のいぶりジャケ」が選ばれた。
イカハンバーグは、スルメイカ、玉ねぎ、ピーマンなどが材料。発案した黒澤峰子さん(64)は、赤浜地区で営んでいた総菜店が津波で被災した。「昔からの家庭の味。皆さんに食べてもらいたかった。評価されてうれしい」。自信がなく、前夜、出品を取り下げようと考えたという。
祭りのオープニングセレモニーで碇川豊町長は「震災後、環境が激変したのにもかかわらず、サケたちがよく戻ってきてくれました。新巻鮭の発祥の地で今年も祭りを開催することができました」とあいさつした。
秋サケ定置網漁は、今シーズン、比較的、順調な漁獲高で推移している。サケは4、5年後に母なる川に戻ってくる。今シーズン戻ってきたサケは震災前に放流されたサケたち。来シーズン以降も、震災の影響を乗り越えて回帰し続けてほしいと切に願う。
(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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