環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の閣僚会合が2013年12月7~10日にシンガポールで開かれ、目標だった「年内妥結」を断念、合意を年明けに先送りすることを決めた。
多数の分野で各国の利害対立が解けなかったためだが、最大の背景は「米国が十分に譲歩しなかったこと」(通商関係者)とされる。米国の動向次第では年明けに妥結がかなうかも不透明で、交渉が長期化することも予想される。
来春にまとまらないと長期化
「来年の春ぐらいまでのタイミングで方向性を出さないと、ズルズルいってしまう可能性がある」――。閣僚会合に出席した西村康稔副内閣相は帰国直後の13日、自民党のTPP対策委員会などの合同会議でこう述べ、来春にもTPP妥結で見通しが立たなければ、交渉長期化もあり得るとの考えを示した。
懸念されているのは米国の国内事情だ。西村氏は「オバマ米政権にとっては、一定の成果を上げずに(来年秋の)中間選挙に臨むのは避けたいところではないか」と指摘。そもそもオバマ米政権は中間選挙でTPPの成果をアピールするため、「年内妥結」を主張してきたとされる。もし、来春にTPP交渉が決着しなければ、米議会での手続きが間に合わず、中間選挙でのアピールもできない。そうなれば、米国に妥結を急ぐ理由がなくなり、早期決着への力が働かなくなるとの見方が強まっている。
シンガポール閣僚会合は元々、米国が「年内妥結」のために半ば強引に各国を召集したといえるもの。米国は閣僚会合を前に自国内で主席交渉官会合を催すなど、「年内妥結」を実現するための布石を着実に打ってきた。そんな中、各国とも米国の譲歩を期待して臨んだ閣僚会合だったが、米国は打って変わって強硬な姿勢に終始。「我々の懸念に応えるような柔軟な姿勢を示してほしい」(マレーシア交渉官)との不満が飛び交った。
米国の利益が小さい妥結は難しい
米国の姿勢の変化には国内事情が関係している。今秋以降、米国内では政府機関の一時閉鎖や財政赤字削減策などを巡って議会が混乱し、オバマ大統領の求心力は急速に低下してきている。閣僚会合を目前に、産業界の意をくんだ議員らがオバマ政権に交渉への注文をつける場面も増えた。議会は、大統領に貿易交渉を一任する「貿易促進権限(TPA)」もいまだに付与しておらず、「米国の利益が小さい妥結をしたら米国内で大混乱が生じるとの懸念が強まっていた」(通商関係者)とされる。
次回の閣僚会合は来年1月に予定されているが、米国がどのような姿勢で出てくるかは見通せない。少なくとも中間選挙が近づけば、米議員は産業界や地元の影響を受け、TPPへの反対論が高まる可能性は大きい。妥結に向けた環境は日々悪化するともいえる。
そんな中、「タイムリミットは来年春」との見方が強いが、日本の責任も軽くない。日本と米国は全TPP交渉参加国の国内総生産(GDP)の約8割を占め、両国の交渉はTPP交渉全体を左右する。しかし、日本は「聖域」とするコメや麦など「重要5項目」の関税維持を主張し続け、今回の閣僚会合でも100%の自由化を求める米国と対立し、物別れに終わった。「年内妥結」断念が日米交渉の不調と無関係とは言えない。TPPが目指す高いレベルの自由化に対し、日本も真正面から取り組む必要が強まっていると言えそうだ。