朴槿恵大統領は「最大の危機」に陥った――韓国メディアが警戒感を募らせている。政権の看板となる「朴外交」が、就任1年を前に壁にぶち当たりつつあるからだ。
朴大統領は2013年、日本を除く世界各国を精力的に回り、実に31度の首脳会談をこなした。日本側からは「反日」「おばさん外交」といった揶揄が目立つものの、韓国内では、
「米・中・露など半島周辺の大国首脳と精力的に会談、特に中国と友好関係を結ぶことで、北朝鮮に圧力をかけるとともに、米韓同盟に偏らない『均衡外交』を実現した」(聯合ニュース)
などと称賛され、50%を超える高支持率の源泉となっていた――はずだった。
防空識別圏、北朝鮮暴走で「狂った」シナリオ
しかしこうした「成果」の数々が、ここに来て次々とひっくり返り始めた。
まずは中国だ。習・朴会談などを通じ親密さをしきりにアピールしていたにも関わらず、防空識別圏問題では「北東アジアのバランサー」どころか完全に「子ども扱い」に。協議でも譲歩を引き出すことができず、日本ともども主導権は米中に握られっぱなしだった。
北朝鮮でも突然の張成沢粛清で、情勢が一気に不安定化した。今回の処刑は中国の意向を無視した「暴走」だったとされており、中国に頼った抑え込みの限界も同時に露呈した格好となった。
そして米国からは、中国への接近と日本との軋轢にたびたびクギを刺されている。特に12月6日に訪韓したバイデン副大統領からは改めて日本との関係改善を促されるとともに、「米国の『反対側に賭ける』ような行動は好ましくない」と、米韓同盟への回帰を強く迫られた。さらに日本の集団的自衛権問題では、韓国世論がしきりに反対を叫んだにもかかわらず米国はあっさり賛成し、朴外交は完全にメンツをつぶされた。
「ユーラシア・イニシアティブ」計画をぶち上げ、トップセールスを成功させるなど、外面は華々しかったものの、安保面では「誤算」が続いた朴外交に、韓国内の識者も、
「重要で難しい問題は避けながら、簡単な話ばかりを強調して『優雅な外交』をしている」(金峻亨・韓東大学教授)
などと採点は辛口だ。
朝鮮日報も「千年恨」外交の転換要求
好意的だったメディアの論調にも、変化が見え始めた。メディア評論を主体とする韓国紙・メディアトゥデイの表現を借りれば、
「朴大統領の外遊に賞賛一色だったメディアも、(ここ最近の東アジアにおける)国際的危機に『答えを示せ』とわめきたてており、リーダーとして最大の危機にあるとさえ叫ばれる」
という状況だ。「四面楚歌」――そんな言葉さえ飛び出す。
その中で、日本との「協力」を論じる声が改めて高まっている。「防空識別圏問題で軍事衝突の可能性が高まり、張成沢を処刑した北朝鮮がいつ暴発するかわからない状況では、両国の断交はどちらにも得にならない」(韓国日報、16日付社説)、つまりは「反日どころではない」というのがその理由だ。
以前から朴大統領に対し対日融和を促してきた大手紙・朝鮮日報は、3日付のコラムで東アジア情勢に危機感を露わにしながら、
「韓国も、昔の被害を永遠の債務にする発言や行動に出るのは決して成熟した態度ではないこと、そうした発言などは今や国際社会の一員に加わる国・国民・指導者にふさわしいものではないことを、熟知することが望ましい」
と、朴大統領に「千年恨」外交を転換し、日本との関係を改善するよう重ねて求める。朴政権に好意的だった中央日報も16日、
「不明瞭な外交を繰り広げ米国と中国の両方に捨てられ孤立することもしかねない局面」 「周辺国との善隣外交、バランス外交の展開が必須だ。特に同じ境遇にある日本との協力も拒んではならない」
とする文正仁・延世大学教授の論考を掲載するなど、中国への警戒を強めるとともに、日本への接近を唱えた。
両紙と並ぶ三大紙・東亜日報も17日付社説で、「狂暴な金正恩第1書記に核兵器を握らせてはならない」とし、日本を含めた各国との協力が不可欠、との認識を示している。