2014年度税制改正で、法人税の実効税率引き下げが先送りになった。「アベノミクス」の一環として企業の国際競争力強化を狙いにアジア諸国並みの20%台への引き下げに意欲的な安倍晋三首相・官邸に対し、自民党税制調査会(野田毅会長)・財務省が押しとどめた形だ。
ただ、首相サイドは今回、無理押しを避けた。来年4月の消費税率8%へのアップの決断をギリギリ10月まで引っ張って「法人実効税率引き下げ検討」の言質をとった安倍首相のこと。消費税の10%への引き上げ(2015年10月予定)の実施判断は来年末になる見通しで、2015年度税制改正に向け、官邸、財務省、与党入り乱れての神経戦が続くことになる。
中国・韓国並みに下げたい意向
法人税の実効税率は35.64%。そして、東日本大震災の復興財源確保のため2014年度まで38.01%に引き上げられていた。首相サイドは実効税率引き下げをアベノミクスの柱の一つに位置付け、企業の国際競争力を守るべく、中国や韓国などと同水準の 25%程度まで下げたい意向。これに対し自民党税調・財務省は、法人税の実効税率を1%下げると約4000億円の税収減になることから、「財政事情が厳しい」と、引き下げに抵抗している。
自民党税調と公明党税調が12日決めた2014年度税制改正大綱は、法人実効税率について、「引き続き検討を進める」との表現にとどめた。消費税率8%を最終的に決めた今年10月の段階でまとめた税制大綱に、安倍首相の強い意向で、法人実効税率引き下げを「速やかに検討開始」と盛り込まれたことを考えると、年末まで議論が進まなかったことになる。
安倍首相も、今回は党税調の議論を静観した。最大の理由は、復興特別法人税の前倒し廃止が決まったからだ。10月に消費税率8%を決めた際、安倍首相は法人税の上乗せ分である復興特別法人税を1年前倒しで廃止する方針を打ち出し、党税調もこの時点で容認し、すでに今年度いっぱいで廃止することは既定路線になっていた。
この際、将来のさらなる実効税率引き下げにも道筋をつけようとする首相サイドと、慎重姿勢の党税調・財務省の綱引きの末、首相が押し切って「検討開始」が盛り込まれた経緯がある。来年度から実効税率は特別法人税の2.37%分が下がるので、首相サイドには「当面はそれでOKという判断があった」(政府筋)というわけだ。
このため、首相官邸が見据える実効税率のさらなる引き下げ時期は2015年度からだ。その結論を出すのは2015年度予算が決まる2014年末、つまり1年後だ。この時、2015年10月に予定される消費税率10%へのアップとセットでの議論になる。
首相の支持率にも影響
1年後に向け両陣営の議論は、今年秋の消費税率8%決定の際と同様、首相サイドが同10%へのアップを「人質」にとり、法人税率引き下げを迫る――という構図になる。
議論の行方に大きく影響するのは、言うまでもなく、第1に景気動向だ。来年1~3月期は消費税率上げ前の駆け込みで高成長、4~6月期は反動でマイナス成長となるのは確実だが、政府のシナリオ通り、その後は回復するか、見方は分かれ、「回復が思わしくなければ消費税率10%どころでなくなる」との声が財務省内にもある。特定秘密保護法を強行成立させて下がった安倍内閣支持率が、景気動向によってさらに下がるようなことがあれば、増税のハードルは一段と上がる。
政治日程にも懸念がある。2015年春は統一地方選、2016年7月に参院選がある。統一地方選を控えた2014年末に増税を決めにくいのが人情だし、かといって、先送りすれば、参院選、さらに衆院選も視野に入ってきて、一段と増税に踏む切りにくくなる可能性もある。
法人税率引き下げ自体に「企業優遇」との批判がくすぶり、企業が来春闘での賃上げなど労働者にどのくらい還元するかも大きなポイントになる。こうした様々な要素が重層的に絡みあい、1年後に向けて議論が進むことになる。