日本よ、わが国の宝を返せ――こんな決議案が、韓国の国会で2013年12月10日、「全会一致」で成立した。
問題となっているのは、朝鮮王朝時代の国王が愛用したという鎧・兜だ。現在は東京国立博物館に展示されているが、韓国側は「日本に不法に奪われた!」と主張、「即時返還」を求めるキャンペーンを張っている。
来場者も足止める美しい兜と鎧
決議通過から間もない2013年12月12日。問題の鎧・兜は、東京国立博物館・東洋館5階の常設展会場に、無言で鎮座していた。足元の説明文にはただ「甲冑」とのみあり、19世紀、朝鮮王朝時代の品であることが簡潔に記される。
重要文化財も含め、朝鮮半島の貴重な文物がずらりと並ぶこのフロアだが、興味のない人にとってはいささか「地味」に映るのだろうか。修学旅行生の集団も見えず、平日の午後ということもあって、数人の年配客の姿があるばかりだ。
そんな中で、この鎧・兜はひときわ目をひく。特に華やかなのは兜で、龍をかたどった金の飾り、頭頂部から垂れる紅毛、そして後頭部から耳元までを覆う毛皮と、いかにも勇壮、いかにも豪華な造りだ。鎧の方はコート風の構造で、やはり至るところに金の飾りがあしらわれている。いずれも、相当の貴人の所有物だったことが容易にわかる。まばらな来場者も、この鎧・兜の前に来ると必ず立ち止まり、その姿に見入っていた。
韓国側は、この鎧・兜が朝鮮王朝の26代国王・高宗(1852~1919)の愛用品であるとし、日本統治時代「不法」に持ち去られたと主張する。
再び先ほどの説明文を確認すると、そこには小さく「小倉コレクション保存会」から寄贈された、との記載がある。小倉コレクションとは、日本統治時代に朝鮮半島で活動した実業家・小倉武之助氏(1870~1964)が収集した1000点にも及ぶ文物のことだ。その死後、国に寄贈され、現在は東京国立博物館が所蔵する。
改めて展示室を見れば、三国時代の土偶から仏像、高麗青磁と、ありとあらゆるジャンルの「小倉コレクション」旧蔵品が目につき、その収集の「熱心さ」がうかがえる。韓国側ではその収集が非合法的なものだったとして、「盗掘王」とまで称されている。
日本には「6万点」の文化財がある
韓国ではここ最近、国外に流出した文化財の「返還」を目指す動きが盛んだ。特に有名なのが、市民団体「文化財を元の場所に」を率いる僧侶の彗門(ヘムン)氏で、日本のみならず各国を行脚しては「略奪された」文化財を見つけ出してきた。
最近では朝鮮王朝時代の印判を所蔵する米ロサンゼルスの博物館に対し、韓国のネット世論にも呼びかけながら、ついに2013年中の返還を約束させた。日本による「朝鮮王室儀軌」の「返還」(2011年)に関しても、民間の立場から熱心に活動している。その対象は幅広く、中には日本統治時代に標本化、保存されていた「妓生の女性器」まで挙げたことがある。
もちろん今回の問題でも先頭に立って行動しており、10月には来日して東京国立博物館を訪れ、鎧・兜に合掌した。ネットを通じて募金活動も展開、国会に決議案を提出した「同志」安敏錫議員を強力にバックアップしている。韓国では現在も与野党が激しい攻防を続けているが、今回の決議はあっさり全会一致で通過した。決議では日本政府に対し、「誠実な調査」を行い、不法に持ち出されたものだと確認されれば、ただちに返還するよう要求している。
しかし所蔵する東京国立博物館は、こうした動きに困惑しきりだ。
「韓国側からの連絡は今のところありません。この問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みというのが政府見解ですので、それに基づけば、こちらから対応する必要はないのでは、と考えています。そもそも、合法的かつ正当に購入したものですから……」
韓国の文化財庁は、日本国内には実に6万点超の「流出文化財」が眠っているとしている。もちろんそのすべてが「略奪」ということはあるはずもないが、彗門氏を始め韓国側ではこれらについても、引き続き返還を求めていく構えだ。