2020年以降の温室効果ガス排出削減の新枠組み作りを協議した気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19、ワルシャワ)は2013年11月末、各国が自主的に目標を決める方式の採用を決め、なんとか合意に漕ぎつけた。先進国と途上国間、また先進国間の利害が複雑に絡むだけに、妥協はやむをえないとの評価が一般的だが、これで本当に温暖化を阻止できると考える専門家はいない。今後、実効性をいかに高めていくか、世界の知恵が試される。
これまでの京都議定書は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減を義務付けていたものの、先進国のみが対象で、中国をはじめ成長に伴いCO2排出量が急増している途上国に義務が課されておらず、また先進国でも米国が議定書から離脱したため、世界が一丸となって温暖化に対抗するには程遠い枠組みだった。
途上国をいかに巻き込むかが最大の焦点
そこで、2020年以降の枠組みでは、途上国をいかに巻き込むかが最大の焦点だった。
COP19では厳しい議論の末、各国が自主的に目標を決め、国連に提出するという作業計画に合意した。目標の提出期限は「準備できる参加国」は2015年第1四半期(1~3月)とし、最終的に同年末にすべての国の目標が出そろうことになる。これをもとに同年末のCOP21(パリ)で、新しい枠組みを正式に採択することが予定されている。
また、温暖化によるともられる台風や洪水といった異常気象や、海面上昇などに伴う「損失と被害」に対処するため、「ワルシャワ国際メカニズム」と呼ぶ新たな機関を設け、途上国支援を強化することも決まった。
温暖化をめぐる交渉は、先進国が大量のCO2を排出して今の温暖化を招いたとして、途上国が先進国の責任を追及し、温暖化対策のために自己の成長の足かせになる規制に抵抗。先進国は、今や最大のCO2排出国になった中国など、急成長の中で排出量を激増させている途上国にも削減させようと迫る――という基本構図になっている。先進国は、当然ながら自ら高い削減目標を設定するとともに、途上国へのCO2削減のための資金・技術支援を求められ、逆に先進国は途上国に、援助を条件に削減の努力を迫ってきた。
削減を「約束する」が途上国の抵抗で、「貢献する」に
合意した自主目標方式は、京都議定書を離脱した米国が提案し、日欧が賛同したものだが、合意文書は全体に玉虫色の表現が目立つ。中でも、各国が削減を「約束する(コミットメント)」との文案は、途上国の抵抗で、削減に「貢献する(コントリビューション)」と書き改められ、拘束力のない緩やかな表現になった。また、途上国の目標作りへの資金面の支援をするのは「支援できる国」とただし書きが加えられた。新たな資金拠出に議会の抵抗感が強い米国などは、支援が義務ではないと解釈できる余地を残した形だ。
こうした各国の自主性に委ねる方式では、甘い数値を出す可能性があり、十分な対策になる保証はない。目標そのものがどのような内容になるのかさえ議論にならず、温室効果ガス削減のはっきりした目標でなければならないのか、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入目標といった内容でも認められるのかも、はっきりしないという。
このため、COP19の場でも、水没の危機にある島国などから「自主目標で温暖化を食い止められるのか」(インド洋のセーシェル)との批判が噴出した。
米国は13年春、各国が国連に提出した目標を相互に評価しあい、より高い目標に引き上げようと提案した。今回、とりあえず「目標提出」で合意するのが精いっぱいだったが、目標の実効性を高める努力が極めて重要になる。
日本は、2020年までに「1990年比25%削減」との従来目標を取り下げ、COP19に合わせて「2005年比3.8%削減」に目標を後退させ、COP19で先進国、途上国を問わず厳しい批判を浴びた。原発稼働ゼロと仮定した暫定値とはいえ、1年余り後の2015年春に2020年以降の目標を改めて国連に報告することになるが、原発再稼働が見通せない中、どこまでの数値を示せるかは不透明で、今後の国際交渉の中で、発言権をいかに確保するか、見通しは立っていない。