東日本大震災の被災地で計画されている防潮堤の建設について、安倍晋三首相夫人の昭恵さんが「きちんと精査して見直していただきたい」と、撤回を求めた。
福島第一原発事故の処理が計画どおりに進まず、地元を離れて暮らす人々や、今なお仮設住宅での生活を余儀なくされている人々がいるなか、夫人は被災地に足を運んだ経験を踏まえ、「行政に意見が届かないところで反対意見がたくさんある。政治への不信感や諦めが住民に広がってしまわないように、みんなで考え直していきたい」と訴えた。
巨大な防潮堤「景観損なう」「漁業に支障」
被災地の沿岸に建設を予定している防潮堤は、総延長370キロメートルで、約8000億円の予算を手当てしている。過去に発生した津波の高さを痕跡高の調査や記録・文献などから整理し、一定頻度で発生すると想定される津波から海岸堤防によるせり上がりを考慮して津波の水位を設定。さらにシミュレーションをかけて、地域ごとに堤防の高さを決めた。
東日本大震災で多くの人を飲み込んだような、巨大津波に負けないための、巨大な防潮堤だ。
しかし、その建設に地元から反対の声があがった。同じ被災地でも地域によって実情は異なる。工場や産業エリアであれば高い防潮堤でもいいが、海辺の景勝地では景観が台無しになるし、ワカメや昆布などの漁業資源がある地域では海の生態系が変わってしまう、環境破壊が懸念される。
そういった地元の声を、昭恵夫人が2013年12月4日に開かれた自民党環境部会のシンポジウムで代弁した。昭恵夫人は「防潮堤反対運動をするつもりはありません。必要なところはきちんと造ればいい。しかし、必要ないところはやめればいい」と語った。
これに対し、内閣府兼復興政務官の小泉進次郎氏は、大震災のとき岩手県普代村で高さ15.5メートルの堤防と水門が津波被害を食い止めた実例をあげ、「批判を受けても、後世に『これが命を守った』と言われるなら、やらなければいけない」と応じた。そのうえで、「何が何でも高いものを造るというわけでもない。柔軟に議論を重ねて、地元の声を反映させる形で取り組んでいきたい」と話した。
防潮堤を造る予算は復興予算が充てられるため、地元住民の負担はない。ただし、25兆円の復興予算は原則2015年度末までしか使えない。
気仙沼市は約65%が建設で合意
一方、被災地では防潮堤の建設に向けて、ゆっくりではあるが前進している。たとえば、東日本大震災前に宮城県有数の海水浴場としてにぎわっていた気仙沼市の大谷海岸には、高さ9.8メートル(東京湾平均海面が基点)の防潮堤の建設計画がある。
地上からは6.1メートルの高さで、やはり景観が損なわれるとの理由から反対する声もあるが、気仙沼市は「建設に向けては、周辺道路や漁港設備との調整もあって詳細はこれから」としながらも、同意を得られたという。
気仙沼市によると、31の管理漁港のうち、防潮堤の建設に合意している漁港は現在約20あり、12~13の漁港で計画が進行している。半面、防潮堤の建設を見送った漁港は2~3あり、それらの漁港は規模が小さいことが理由。まだ結論が出ていない漁港との調整を続ける。
市は「2012年以降、地域ごとで意見交換会を重ねてきており、そこで地元と合意できたところから計画を進めています。防潮堤の高さは宮城県の設定基準に則っており、市内では話し合いによって変更されたことはありません」(水産基盤整備課)と話す。
建設が決まっている漁港の中で、一番高い防潮堤は14.7メートルの高さがある。