2014年度は、2年ごとに行われる診療報酬の改定の年。これが2013年末の国の2014年度予算編成の焦点になっている。
診療報酬を上げ、医療現場の待遇改善を目指している厚生労働省に対し、財務省は安易な引き上げを認めないとして、激しい綱引きを演じている。
「本体」はプラス改定が続く
国民の医療費は税金と保険料、患者負担で賄われている。今年度の医療費は約42兆円と見込まれ、うち11兆円が国庫負担。14年度予算の概算要求では、医療費の自然増だけで国費分は約3500億円にのぼる。
診療報酬は、患者に診察、検査、手術などをした病院や診療所などが受け取る医療費の「公定価格」。例えば初診料は270点(1点=10円)となっていて、金額は2700円。診療報酬は、通常、患者が3割負担するなど、健康保険組合、国・地方自治体を含めて分担して払う仕組みだ。
診療報酬は、(1)医師の給与など「本体」、(2)医薬品の値段などの「薬価など」に分けられ、両者の合計である「全体」の改定率を予算編成で決める。「薬価など」は1990年度の改定以降、マイナスが続いてきた。成分は同じだが価格が安い後発医薬品の普及などが理由で、今回もマイナス改定の見通し。そこで、焦点は「本体」になるが、最近は3回連続でプラス改定され、「全体」も2回連続で増額になった。
マイナス改定は「医療崩壊」につながると主張
厚労省は今回も、医師不足、救急医療や小児科、産科などの労働環境の改善を理由に「本体」の引き上げが必要と主張する。2002~08年度と4回連続で「全体」がマイナス改定されたことが「医療崩壊」の一因になったとの基本認識があり、本体のアップをテコに、課題である救急医療などの充実に取り組む考えだ。背後には医師会の「消費増税の財源を社会保障の充実に充てるのは国民との約束」(中川俊男副会長)という意向がある。
一方、財務省は今回、薬価を下げた分を技術料に上乗せする必要はないと主張する。麻生太郎財務相は11月15日の政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で「病院の利益や医者の給料は、ほかの産業よりも伸びている」という資料を出し、技術料の引き下げを求めた。
診療報酬の元手となる保険料を負担する健康保険組合連合会(健保連)や経団連、連合など支払い手の民間6団体は、診療報酬の引き下げを要求し、財務省と歩調を合わせる。
消費増税と診療報酬アップでダブルパンチ
今の構図は、財務省側が診療報酬削減に向け攻勢に出ている形。15日の諮問会議では学者ら民間議員が、消費増税と診療報酬アップは国民の二重の負担増になると指摘。診療報酬全体を上げるか下げるかは明言を避けたものの、「診療報酬のあり方をはじめ、社会保障の歳出の合理化、効率化に最大限取り組む」必要を訴えた提言書を提出し、財務省を援護射撃した。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)も2014年度予算編成に向け11月29日に麻生財務相に提出した建議(意見書)で、「本体」についても引き下げると明記した。
今回の改定で、ポイントになるのは、やはり4月からの消費税率引き上げ。具体的に、2つの面で医療費には大いに関係する。
一つは税率アップで医療機関の物品や機器の仕入れコストが上昇する問題だ。診療報酬は消費税が非課税のため、コストアップ分を転嫁できない。そこで、政府は診療報酬の「本体」に、消費税アップ分を上乗せすることを認める方針は確認している。前回1997年の3%から5%への税率アップ時の診療報酬上乗せは0.8%分だった。今回どれだけ上乗せを認めるかは厚労、財務省が交渉中。
もう一つは消費税増収分の使い方だ。税収の一部を医療に回すという政権の基本方針は揺るがないが、医療機関全体に等しく行き渡る診療報酬を上げるという厚労省と、在宅医療の充実など特定の政策目的に向け、特定の医療機関に直接配分する補助金が効果的とする財務省の見解は対立したまま。決着は年末の予算案決定ギリギリまでもつれ込む雲行きだ。