円安株高のアベノミクスの効果もあって、企業の業績が向上。それにより、サラリーマンなどの給与上昇への期待が膨らんでいる。
実際に、厚生労働省の毎月勤労統計調査では「収入が増えた」との報告もある。その一方で、実質賃金は「下落が続いている」と報じていて、上がっているのか、下がっているのか、はっきりしない。
10月の給与、基本給は17か月下落している
厚生労働省が2013年12月3日に発表した10月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所が対象)によると、従業員1人あたり平均の現金給与総額は前年同月に比べて0.1%増の26万7167円で、4か月ぶりに増えた。
しかし、喜んではいられない。収入が増えたのは、景気回復に伴う生産活動の活発化で残業が増えたからだ。
給与総額の内訳をみると、残業代にあたる所定外給与は5.4%増の1万9511円。7か月連続の増加で、2012年5月以来の高い伸びだった。
半面、基本給にあたる所定内給与は0.4%減の24万2153円で、17か月連続で減少した。賃金水準の低く、労働時間の短いパートタイム労働者の割合が増えていることが影響。厚労省は「人手を集めるためパートの時給は上がっているが、一方で労働時間も減っているため、手取りが減った」としている。
毎月の給与の増減は残業代に支えられているといってよく、賃金を底上げする動きは鈍いままだ。
わずかではあるが、増えている毎月の現金給与だが、いまも「生活が厳しい」と感じている人は少なくないようだ。それを示すのが「実質賃金」。
実質賃金は、名目賃金指数を消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で除して算出している。厚労省によると、実質賃金は7月が前年同月に比べて1.0%の低下。8月が2.0%減、9月は1.5%減、10月も1.3%減と、4か月連続で低下している。
残業代で収入が増えても、どこか実感がないように感じるのは、増加分を上回って物価が上昇しているため、ということのようだ。
消費増税分が増えても喜べないかも?
総務省によると、2013年10月の全国の消費者物価指数は、価格変動が大きい食料とエネルギーをのぞく指数(2010年=100)が98.8となり、前年同月を0.3%上回った。プラスになったのは2008年10月以来、じつに5年ぶりのこと。甘利明・経済財政相は11月29日の記者会見で「デフレ脱却に向けた姿がさらに明確になってきた」と喜んだ。
円安で輸入品の物価が上がったことが大きな要因だが、幅広い品目で価格が上昇しはじめたことを示すもので、物価が下がり続ける「デフレ」は収まりつつあるようだ。
政府にとってデフレ脱却は好ましいことだが、物価が上昇すれば実質賃金は圧迫され、それはそのまま家計の購買力の低下につながることになる。
給与が上がるには時間がかかる。しかし、給与が上がらなければ、消費意欲が減退して、再びモノの値段が下がるデフレ・サイクルに逆戻りする。
まして、2014年4月からの消費増税が迫ってきた。毎月の給与が上がればうれしいに決まっているが、上げ幅しだいでは、手放しでは喜べないかもしれない。