北朝鮮の金正恩第1書記のおじにあたり、事実上のナンバー2だとされる張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長が失脚したと韓国の情報機関が分析していることを受け、この失脚が正恩氏の政権運営にどのような影響を与えるかが焦点になりつつある。
米国や韓国では、正恩氏が権力を掌握しつつあり、その過程での失脚劇だとみる向きもある。
テクノクラートの「取り巻き」が勢力拡大中?
米国務省傘下のラジオ局「ボイス・オブ・アメリカ」では、米国の軍事問題専門シンクタンク、海軍分析センター(CNA)のケン・ゴス国際関係局長の
「正恩氏が権力を固めるプロセスが、予想よりも早くなっている」
という分析を紹介した。
韓国でも同様に、正恩氏が権力を掌握しつつあるとの見方があるようで、東亜日報は、政府当局者の話として
「今回の粛清は、正恩氏の承認がなければできない」
と指摘。脱北者の趙明哲(チョ・ミョンチョル)議員は、張氏は正恩氏にとって味方であると同時に脅威だったとみる。そのため、張氏の失脚は「北朝鮮の単独支配体制が強固になったという明確な証拠」だという。さらに韓国政府当局者は、40~50代のテクノクラート(技術官僚)の集団が正恩氏の「取り巻き」として勢力を拡大しており、正恩氏がこれに乗じて張氏をはじめとする親族の追い落としを図った可能性があると指摘している。
北朝鮮の国営メディアも、思わせぶりな記事を配信している。2013年12月4日付けの朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は、「革命的信念は、命よりも貴重だ」と題した長文の論説記事を掲載し、その中には
「信念のない人間は、いくつかの場所で何をしても全く許さず、峻厳な審判を与えなければならないというのが人類の良心の声だ。信念から脱線すれば、誰であれ革命の原則が絶対に許さない」
という文章がある。このくだりが張氏のことを指しているとの見方も出ている。
韓国国防相「北朝鮮が各地で軍事力を強化していくことは事実」
今回の失脚が事実だとすれば、国際情勢が緊迫するという点では各種の分析は一致しているようだ。東亜日報の記事では、統一研究院のパク・ヒョンジュン専任研究委員が
「(北朝鮮の)国内が動揺すると、引き締めを図るために国外との緊張を高める戦略をとることもあり、朝鮮半島情勢が再び悪化する可能性もある」
と予測している。
韓国政府もこれに近い見方をしており、聯合ニュースによると、金寛鎮(キム・グァンジン)国防部長官は12月4日、主要司令官を対象にした会議で、
「北朝鮮内部で権力再編に向けた作業が進んでいる」
と述べ、
「北朝鮮が各地で軍事力を強化していくことは事実」
と警戒を呼びかけた。
カギになるのが、正日氏の命日にあたる12月17日の動向だ。1周忌の12年12月17日には、金日成主席と金正日総書記の遺体が安置されている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿の開館式が行われ、正恩氏を筆頭に、朝鮮労働党や人民軍の幹部が出席した。13年12月17日にも同様のセレモニーが行われるとみられ、この場に張氏が姿を見せなければ、失脚は確定的になる。