2020年東京五輪の経済効果は、実に3.5兆円にも上ると見られている(みずほ総研)。日本経済は大いに沸くが、その裏では「荒稼ぎ」を目論む集団が、すでに暗躍を始めているという。
国民生活センターの担当者はこう指摘する。
「特にここ数年増えている『買え買え詐欺』は、その時々の時事的な話題を取り入れてくることが多い。少し前ならメタンハイドレートやシェールガス……そして今出てきているのが、東京五輪の名前を利用したケースなんです」
実在の旅行会社の名前騙って…
2013年10月上旬、岐阜県高山市の60代女性のもとに、一通のはがきが届いた。東京五輪開幕式の「特別シート」の先行限定予約をうたうもので、旅行大手である「近畿日本ツーリスト個人旅行」(東京・墨田区)の名前が記されていた。
後日、女性の自宅に別会社の社員を名乗る男から、このはがきについての問い合わせの電話がかかってくる。
「はがきは届いていませんか? チケットを買ってくれれば、SS席なら45万円、SA席なら40万円で買い取ります」
そこで女性が「近畿日本ツーリスト」に電話をしてみると、「SS席は12万5000円、SA席は10万円で現在販売中です」という。転売すれば、1枚あたりざっと30万円の儲けになる。
ところが支払方法を尋ねると、「宅配便で」。妙だと思った女性は、はがきを手に近所の近畿日本ツーリストの営業所を訪れた。驚いたのは担当者だ。何しろ、東京五輪のチケットが発売されるのは2019年(予定)。同社で取り扱っているはずもない。
「実は弊社にも10月11日、静岡県浜松市の方から同じような問い合わせがあり、ただちに警察やJOC、東京都などとも相談しておりました。はがきは2件とも同様の内容で、体裁こそそれなりにちゃんとしていますが、よく読めば明らかに詐欺まがい。そのため営業所の職員が女性に同行し、警察署に届け出ました」(近畿日本ツーリストの広報担当者)
典型的な「買え買え詐欺」
類似した案件についての相談は、全国の消費生活センターに9月以来複数寄せられているという。前述の国民生活センターの担当者は、「典型的な『買え買え詐欺』です」と語る。
「買え買え詐欺」はここ数年増加している手口の1つで、複数の業者を装った犯行グループが、「A社の商品を代わりに購入してくれれば、B社が高額でそれを買い取る」などと持ちかけるものだ。「A社の商品は選ばれた人しか買えない」「必ず儲かる」などと「他人」を装った犯人が被害者をあおり、ダイヤモンドや金融商品などを買わせるが、転売には応じず姿をくらましてしまう。実在の企業名や時事的に話題の「ネタ」を名乗ることも多いといい、まさしく今回の「五輪詐欺」そのものだ。
過去の被害者が再び「カモ」にされるケースも…
「五輪詐欺」の手口はチケットに限らず、「五輪関連企業への投資」や「メダル製作企業への協賛」など様々だ。中にはまんまと金を巻き上げられた被害者もいる。
70歳代の男性Cさんは、「証券会社」を名乗る相手から、「以前あなたが30万円で購入したD社の未公開株が、五輪開催で10倍に値上がりした。売らないか」と勧誘を受けた。売却を決意したCさんだが、相手は「送金のための保険」「書類作成」「多重契約の解消」「嘘を言った罰金」などと次々名目を付け、次々に請求を行った。とうとう所持金が尽きたCさんは消費者金融で20万円の借金までし、それでも足りず友人に相談、ようやく「詐欺だ」と気づかされたという。
そもそもCさんが持っていたという「未公開株」も、「買え買え詐欺」の典型的なネタの1つだ。「過去の損失を取り戻したい」ところに、「五輪」をエサに勧誘を行う――国民生活センターの担当者も「2次被害」の可能性を指摘する。「五輪で株や不動産などの価値が上がるということは実際あり得るだけに、一見きわめて『それらしい』」(担当者)のが厄介だ。
国民生活センター、また警察庁などでは、引き続きこうした「五輪詐欺」に警鐘を鳴らしていくという。