「世紀の天体ショー」が楽しめるとして期待されていたアイソン彗星が、太陽に接近したときに分解・蒸発したことが明らかになった。各地の天文台で予定されていた観測会も続々と中止が決まり、天文ファンからも落胆の声が広がっている。
なかでも大弱りなのが 日本航空(JAL)と全日空(ANA)系のツアー会社だ。チャーター便を用意してかなり高額のツアーを売り出し、良い席はあっという間に売れてしまった矢先の事態。中止にするかどうかは検討中だが、「想定外」と頭を抱えている。
NASA観測員「近日点に到達する前に、分解・蒸発してしまったようだ」
日本時間の2013年11月29日2時前に撮影されたアイソン彗星(写真右下)。この後太陽に最接近し、その姿が確認できなくなった。中央の丸い部分は、太陽の光をさえぎるための装置(NASA/SDO/ESA/SOHO/GSFC)
アイソン彗星は2012年9月21日に発見され、13年11月29日に太陽に最接近して一番明るくなり、12月上旬には日本からでも肉眼で観察できるとして期待を集めていた。ところが、アイソン彗星を観測していた米航空宇宙局(NASA)は、
「彗星の運命はまだ決まったわけではないが、旅で生き残ることはできなかったようだ」と発表。NASAと欧州宇宙機関(ESA)が公開した観測動画によると、太陽に接近する直前に明るくなったが、その後は先端の明るい「核」と呼ばれる部分が確認できなくなってしまった。
NASAの発表文には、
「(軌道の中で太陽に最も近い)近日点に到達する前に、分解・蒸発してしまったようだ」
という観測員のコメントも引用されている。彗星は氷やちりが集まってできていると考えられており、太陽の熱と引力に耐えられなかったとみられる。
ここで皮算用が狂いそうなのが観測ツアーを企画したジャルパックとANAセールスだ。両社のツアーでは、12月8日未明に羽田空港に集合して、チャーター便(ボーイング737-800型機)が早朝5時頃に出発。90分程度飛行してから羽田空港に戻ってくるという点では共通している。上空では雲や光害が避けられる上に、空気が薄いため空がくっきりと見えるのが特徴だ。
JALは天文マニアの機長が企画、ANAは宇宙飛行士の講演つき
両ツアーはそれぞれに趣向が凝らされており、かなり気合いが入っている。
JALは、中学生の頃から徹夜で流星群を見に行くほどの天文マニアの機長が企画。東京理科大のチームと協力して、機内で専門家が解説する。ANAは、フライト前に宇宙飛行士の山崎直子さんと渡部潤一・国立天文台副台長が講演。渡部氏によるアイソン彗星関連本もプレゼントされる。
強気の価格設定にもかかわらず、かなりの人気だ。JALの値段は席の位置によって異なり、1人2万円~8万4000円。10月4日14時に売り出され、窓側の席は30分後には完売した。10月15日には、通路側の席を含む全145席が売れている。ANAは窓側から通路側までの3席を2人で使えるようにして9万9600円。10月3日14時の発売から15分で100席が完売した。
両社とも「まだ『可能性』の段階なので…。完全に見えないかどうかは、まだ分からない」と、ツアーを中止するかどうかは検討中。ANAは週明け12月2日をめどに、JALは12月3日午前中に方針を発表する。中止が決まった場合、代金は全額払い戻される。