交流サイト(SNS)大手ミクシィの株価が急騰している。ここ数日は「ストップ高」を連発し、株価は3週間ほどで3倍に膨れ上がった。
決算発表で13億円の赤字を発表したにもかかわらず、何が評価されての高値更新なのか。新たに投入したゲームが評判との見方があるが、短期間での急上昇にはなぞも残る。
朝倉社長「確実にヒット」と自信の「モンスト」
ミクシィが2013年4~9月期の中間決算で赤字を発表したのは、11月8日だ。週明けの11日の株価は終値で1087円と、年初来安値に近付く落ち込みとなった。ところがその後はほぼ一貫して上がっていく。27~29日は3日連続で取引の値幅制限の上限に達する「ストップ高」となり、3375円まで上昇。決算発表直後と比べるとおよそ3倍増で、逆に年初来の最高値を更新した。同時期に、ライバルのディー・エヌ・エー(DeNA)やグリーの株価がさえない値動きをしているのとは対照的だ。
赤字決算にもかかわらず急騰、年初来高値更新とは少々不自然に思える。しかも、業績以外で芳しくない情報が出ていた。10月、インターネット上に「リストラが行われている」とにおわせる書き込みが見つかった。一部の社員がカスタマーサポートの部署に移され、社内イントラネットへの接続アカウントが削除されたなどという内容だ。ミクシィ側は、通常の人事異動でリストラではないと否定したが、不振が続くだけに悪いタイミングで報じられてしまった。
それでも株価がアップしているのはなぜか。11月28日付のブルームバーグでは、ミクシィが10月10日に提供を開始したスマートフォン向けゲーム「モンスターストライク(モンスト)」がヒットしている点を挙げる。記事中で、いちよし経済研究所の納博司主席研究員は、新しいビジネスとして取り組んでいるゲーム事業が収益改善に寄与するとの見方を示した。モンストの評判によっては、営業黒字化が早まるかもしれないと予想するアナリストもいるようだ。
確かにモンストは、ミクシィが「社運」をかけたプロジェクトかもしれない。朝倉祐介社長は11月8日の決算発表の席上、「再成長に向けて」と題した各事業の成長戦略を説明したが、いの一番に掲げたのがモンストだった。「最も大きなトリック(仕掛け)で特に期待し、注力している」「確実にヒットする兆しがあると、自信を深めている」と強調している。
「おいしかった銘柄」ガンホーの再来期待
スマートフォン上で、画面のキャラクターを指で引っ張って操作しながら相手モンスターを倒していくルールは、分かりやすくて手軽だ。複数参加型の仕様で、例えば友人と集まった際に最大4人が参加して同じ内容のゲームを楽しめる。「アイフォーン(iPhone)」「アイパッド(iPad)」向けアプリを配信している「アップストア」の評価を見ると、好意的な書き込みが多く並んでいる。
だがITジャーナリストの井上トシユキ氏に聞くと、リリース後1か月半ほどしか経過していない「モンスト」が、ミクシィの株価を3倍増させるほどの強いエンジンに育っているかは疑問だという。ある程度のユーザーは獲得したかもしれないが、本格的に収益の柱となり得るのはこれから、というのだ。
今年、ゲームの大ヒットで株式市場をにぎわせた企業といえばガンホー・オンライン・エンターテイメントが浮かぶ。「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」効果で、5月には時価総額で任天堂を一時抜くほどの勢いだった。先のブルームバーグの記事では、今年1年で株価が7倍になったガンホーのように「『投資家にとって今年、最もおいしかった銘柄』の再来をミクシィに望んでいるという」と書かれている。
井上氏は、現時点ではミクシィの株価をこれほどまでに押し上げる材料が見当たらないと話す。主力のSNS「mixi」では反転攻勢を目指しているが、フェイスブックやLINEに押されてジリ貧の印象がいまだに拭えない。そこで「mixi」で培ったノウハウを生かしつつゲームや、結婚支援サービスなどの「ライフイベント事業」に転換していくかもしれないが、今のところ明確な結果が出ているわけではなく、株価上昇の根拠とはなり得ないという。一方で、ネット系企業の株価は乱高下しやすい点を指摘した。実際にあるソフト企業の株価は、今夏に一時2000円台をつけたが、11月29日には700円台まで下げている。「推測ですが、ミクシィ株が投機に利用されている可能性は否定できません」と井上氏。
再生への道筋が見えてきたと市場が評価したのか、それともマネーゲームに巻き込まれてしまったのか。株価の行方が当面注目される。