総裁の沈黙は緩和競争に出遅れる
黒田総裁が警戒しているのは、欧米中銀との「緩和競争」に破れ、日本経済が再び円高の淵に沈むことかもしれない。
ECBは11月7日に政策金利を0.25%と過去最低に引き下げたが、消費者物価が想定通りには上がっていないなか「次の一手」の観測も浮上している。利下げする余地が小さいだけに、日銀や米連邦準備制度理事会(FRB)のような大量の国債買い入れによる量的緩和策に踏み切る、との見方だ。
FRBはハト派(金融緩和派)の代表格である、イエレン副議長が来年2月に議長に就任することが決まっている。現在のバーナンキ議長は今年5月以降、「年内の緩和縮小開始」をたびたびほのめかして金融市場を右往左往させてきたが、11月に入って「決められたコースはない」と述べて事実上撤回。後任のイエレン氏は既に緩和長期化を示唆している。欧州の金融緩和は強まり、米国の緩和は縮小せず継続することが想定されるのだ。
日銀も毎月、新規発行国債の7割相当を買い入れる大規模な緩和策を導入しているとはいえ、総裁の沈黙は緩和競争に出遅れることになりかねない。実際、白川方明前総裁時代は五月雨式に緩和したにもかかわらず、発信の下手さなども手伝って円高を脱却できなかったと評される。黒田総裁の本当の胸の内は分からないが、ひとまず一段の円安を招いたことは成功と考えているかもしれない。