薬のインターネット販売というと、「99.8%は認められたからいいではないか」という反応が返ってくる。だから、それを実行するために今国会で審議されている薬事法改正は結構なことではないか――今国会の動きはこんなものだ。
これはマスコミが振りまいたイメージに簡単に騙されている。実は「99.8%認められた」ではなく、「9割認められなかった」というのが正しい。
最高裁の違憲判決を厚労省が「独善的に解釈」
政府は11月6日(2013年)、市販薬(一般用医薬品)の99.8%の品目のインターネット販売を解禁するが、28品目は販売を禁止・制限するとした。これに対して、楽天の三木谷社長が猛烈に反発し、こうした立法措置がとられるのであれば、産業競争力会議議員を辞める考えを表明した。ところが、その後、三木谷氏は安倍総理と会い、辞意を撤回した。99.8%も認められるのだから、三木谷氏のゴネ方は酷いという見方もあった。その後、この問題はほとんどマスコミの話題になることはなく、薬事法改正が今国会に提出され、審議された。
市販薬のネット販売について、禁止する法律はなかったが、厚労省は厚生労働省令で規制していた。ところが、2013年1月、最高裁が違憲判決を出している。その理由は、職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかだとした上で、営業を禁止している省令の法律上の根拠がないとしている。裁判官全員一致の意見だった。厚労省は、営業自由への制限という理由を無視して、制約のための法律をつくればいいと独善的に最高裁判決を解釈し、薬事法改正を国会に提出したのだ。
しかも、薬事法改正では、インターネット販売について、市販薬(一般用医薬品)は99.8%を解禁するが、医師の処方箋(せん)が必要な「医療用医薬品」では一切認めていない。
医療用医薬品の市場規模は、市販薬(一般用医薬品)の10倍ほどある。つまり、医薬品全体でいえば、インターネット販売を1割認めて、残り9割を認めなかったわけだ。
マスコミの「99.8%」という数字だけが一人歩きして、国民は全体を見誤ってしまったのだ。
アメリカ、イギリス、ドイツでは、一定ルールのもとで認められている
厚労省は、薬のインターネット販売は危険だというが、科学的な根拠はまったくない。アメリカ、イギリス、ドイツなどでは、一般用医薬品のみならず医療用医薬品についても、一定ルールのもとでインターネット販売が認められている。
こんなことは、誰でも知っているはずだ。医者から処方箋をもらって、医療用医薬品を買いに行っても、薬剤師からは医者以上のアドバイスを受けた人なんていないだろう。普通はただ医療用医薬品を受け取るだけだ。
厚労省は、この現実があるのに、苦しい言い訳をしているが、それが全く滑稽だ。薬剤師には「第六感」があって、それが対面販売の必要な理由という。
今の国会ではなかなか反対の声も上がりにくい。筆者を含めた有志は、11月26日に「医薬品のインターネット販売について早急な再検討を求める」という緊急提言を行った。この声が国会に届けばと願っている。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。