電力システム改革を進める改正電気事業法が成立した。大手電力会社が供給を独占している体制に約60年ぶりの風穴を開け、新規参入や電力会社同士の競争を促し、サービスの選択肢を広げるとともに、電気料金をできるだけ安くする狙いだ。
法案通りに進めば、2020年ごろまでに各家庭ではどの電力会社からどんなメニューの電気を買うか、選べるようになる。しかし、特に改革の「本丸」である発電と送配電の分離を中心に大手電力会社に異論が根強く、今後骨抜きにされる恐れもある。
第1段階は電力融通を指示する「広域系統運用機関」の設立
今後の電力改革は3段階に分けて進む。第1段階は、地域間の電力融通を指示する「広域系統運用機関」の設立(2015年めど)が柱。大手電力ごとに全国10地域に事実上分断されていた市場が統合されることになり、東日本大震災のように電力が足りない地域があれば他地域の電力会社から電力を供給させ、計画停電を避けるとともに、九州の新電力会社が関東の企業に電力を売ったりしやすくなるというように、全国レベルの競争の条件を整えることになる。
第2段階は、2016年をめどに実施する小売りの全面自由化だ。2000年から大工場などの大口顧客などで順次自由化されてきたが、家庭や中小商店は今も地域の電力会社からしか電気を買えない。完全自由化で地域内に複数の電力会社が存在するようになれば、消費者が、料金が安い発電会社や、太陽光など再生可能エネルギーの発電会社を選べるようになる。
そして、第3段階は「発送電分離」で、2018~20年をめどに、電力会社から送配電部門を切り離す。新電力は現在、電力会社が保有する送配電設備を、利用料を払って使っているが、料金設定が不透明との不満が強い。送配電会社が分離され、どの発電会社に対しても中立な立場になれば、自前の発電設備を持つガス会社や鉄鋼メーカー、再生可能エネルギーに特化した業者らが参入しやすくなり、自由な競争が進むという考えだ。
米国では設備投資が抑えられ、大規模停電起きる
今回の法改正は第1段階の部分。第2、3段階の関係は同法の追加改正が必要で、政府は来年の通常国会以降に改正案を提出する。
今後の改革で、特に問題になるのが「発送電分離」だ。これまで「地域独占体制」を続けてきた大手電力には反対論が根強く、法案成立を受けて電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)は「発送電分離は、安定供給を損なわないよう、分離を補完する仕組みやルールを慎重に整備していく必要がある」とのコメントを発表し、早速慎重姿勢を見せた。原発停止でコストが上がり、料金値上げなど困難な状況に追い込まれているだけに、「収支が厳しい中で(電力会社の)組織をいじると資金調達に大きな影響が出る」(北陸電力の久和進社長)との懸念を訴える。
公益事業の自由化では、1985年の電電公社民営化が先輩格だが、圧倒的な資本力があるNTTが市内通信網を独占するという優位な立場を温存し、新電電との競争はなかなか進まなかった。電力でも、新規参入が思うように進まなければ、既存大手電力の優位固定化で料金が高止まりする可能性もある。
足元では、中部電力が新電力のダイヤモンドパワー(東京)を買収して東電のエリアに殴り込みをかけたほか、関西電力も首都圏への参入を表明するなど、大手間の競争が始まりつつあるが、全体からみれば、まだまだごく僅かだ。
米国では発送電を分離した結果、送配電網への設備投資が抑えられ、大規模停電を起こしたのは記憶に新しい。今後の詳細な制度設計では、供給責任を最終的にどこが負うのかなど、詰めるべき点は多い。