中国が沖縄県の尖閣諸島を含む空域を「防空識別圏(ADIZ)」に設定している問題で、日本の航空会社が振り回されている。
日本航空(JAL)と全日空(ANA)は国際的な慣例に従って、防空識別圏に含まれそうな路線の飛行計画(フライトプラン)を中国当局に提出を始めたが、国土交通省から「待った」がかかったのだ。
中国航空当局が「ノータム」で防空識別圏設定知らせてきた
両社が飛行計画の提出を始めた根拠として挙げるのが、各国の航空当局が出す「ノータム」(NOTAM、航空情報)だ。ノータムは軍事演習などで空域制限が設けられる時や、滑走路が閉鎖されて運航に影響が出る場合などに出される。最近の有名な事例では、東京電力福島第1原発周辺の飛行禁止措置が、このノータムを通じて出された。
中国の航空当局は2013年11月23日正午頃、防空識別圏の設定を知らせるノータムを出した。両社はこれに従う形で、飛行計画を中国当局に提出している。
日本と台湾、香港を結ぶ路線が新たな防空識別圏に含まれる可能性がある。天候によって飛行コースが変わるため一概には言えないものの、場合によっては東南アジア行きも含まれるという。ただ、両社とも「遅延、支障など安全運航にはまったく影響はない」と強調しており、ノータムに従って飛行計画を出すのが当然だとの立場だ。
「ノータムが発出された以上、それに従わざるをえないと考えている。防空識別圏に関しては各国が独自に設定しており、運航者としては、公示されればそれに従った運航とせざるを得ない。通常の各国のノータムと同様、運航者の判断で対応することとしている」(JAL広報部)
「各国の航空当局が出すノータムは、日本に限らず全世界の航空会社が対象で、それに従うのが国際的なルール」(ANA広報室)
だが、政府の立場は、両社と相容れない部分があるようだ。太田昭宏国交相は2013年11月26日朝の会見で、
「これまでのルール通りの運用を行っていく旨を中国政府に通告するとともに、本邦航空会社に対しては、我が国の方針を連絡・通知しているところ」
と、飛行計画の提出は必要ないとの見方を示し、菅義偉官房長官も記者会見で同様の答弁をした。
ただ、この時点では「政府の方針を伝えた」だけで、実際にどうするかは各社の判断に委ねられていた形だ。実際、両社はこの会見後も前出の対応方針は変えていなかった。