「あいつが殴った!」「嘘をつけ!」「いいや殴った!」「なんだと!」――酔っ払い同士の喧嘩ではない。「民主主義国家」「先進国」を自認する韓国の国会で、しかも海外元首の議会訪問のさなかに繰り広げられた光景だ。
「韓国は、自由と民主主義の模範です」
「公正な選挙のため、韓国の投票管理システムを学びたい」
2013年11月19日、韓国を訪問した中央アジア・キルギス共和国のアルマズベク・アタンバエフ大統領は、出迎えた朴槿恵大統領に笑顔でこう語っていた。
国会議員と警備員が取っ組み合いで乱闘
キルギスは1991年にソ連から独立して以来、2005年の「チューリップ革命」など複数回の政治的混乱に見舞われている。「先進国」から、円滑な民主政治の在り方を学びたい――というのは、必ずしも単なるお世辞ではなかっただろう。
しかし、アタンバエフ大統領が目撃した民主主義の姿は、あまりにも「残念」なものだった。
なにしろ、韓国の政界は今荒れに荒れている。2012年の大統領選に絡む「選挙介入疑惑」などで与野党の対立は激化、第1野党の民主党が国会審議を「ボイコット」すれば、与党・セヌリ党も北朝鮮に近い左派政党・統合進歩党の「解散」という前代未聞の措置に出るなど、その強権性を強める。おかげでもう11月も後半だというのに、来年度予算すら成立しない有様だ。
18日には朴槿恵大統領が自ら議会に乗り込んだが、今度は民主党の姜琪正議員が大統領側の警護担当者と乱闘騒ぎを起こした。セヌリ党側は姜議員を非難し、民主党もボイコットで対抗する。
アタンバエフ大統領が「民主主義を学びに」やってきたのは、そんなさなかだ。
この日、国会は午前中から前日の乱闘をめぐり激しい応酬が続き、与野党議員は互いに「姜議員の側が先に手を出した」「でたらめを言うな」などと顔を真っ赤にしてやりあった。そして午後にはとうとう、民主党議員たちが文字通り席を蹴って議場を去ってしまう。
直後、アタンバエフ大統領が国会に到着したが、こんな状況では議事を進めようもない。大統領は人もまばらな議場を眺めること10分あまり、空しく帰るほかなかった。
「会談大成功」と韓国マスコミは胸を張るが…
韓国としては、「いや、今回はたまたまモメているところで……」と言い訳したいところだろう。しかし元時事通信ソウル特派員の評論家・室谷克実氏によれば、「韓国の国会は常にモメている。むしろ日常茶飯事」なのだという。
「韓国国会は一言でいうと『動物園』(笑)。『ベテラン議員』というものがいなく、何かあると当選1~2回の議員たちがなんの戦術もなく、すぐに『乱闘』騒ぎを起こしてしまう。過去には、議員がバリケード突破のためチェーンソーを持ち出す、また催涙弾を投げるなんて事件もあった。アタンバエフ大統領も、実に韓国らしい場面を見たわけです」
さすがにばつが悪かったのか、韓国メディアは「アタンバエフ大統領、朴大統領が唱える『ユーラシア・イニシアチブ』戦略に賛意」「韓国とキルギスは『親戚の国』と発言」「『韓国の勤勉さ学びたい』と絶賛」などなど、その成果をしきりに強調する。もっとも中央日報など一部メディアはこの騒動を詳細に報じ、
「彼に大韓民国国会が見せたのは『模範的な民主主義』のようなものとはほど遠かった」(中央日報)
「われらの国会が恥ずかしく思えた一日だった」(文化日報)
と自国の「民主主義」の現状にため息をついた。一般国民からも、こんな自嘲じみた声が聞かれる。
「きっとこれでキルギスも民主主義の空しさを悟って、維新体制(朴正煕元大統領による独裁政権)を採用するだろうさ」(ある掲示板住民)