東洋平和のために、韓国と日本、そして中国は手を携えるべきだ――伊藤博文を暗殺したことで知られる安重根(1879~1910)は、処刑直前の遺著にこう書き残した。
没後100年、その安重根の評価をめぐり日本・韓国・中国が対立を深めている。
きっかけは韓国の朴槿恵大統領が2013年6月、伊藤暗殺現場である中国・ハルビンに、安の記念碑を建てる計画を中国・習近平国家主席にもちかけたことだ。
日本の国会でも「名誉回復」が提起されたことも
さらに朴大統領はダメを押すように11月18日、訪韓した中国高官に対しわざわざこの話を持ち出し、建造計画が順調に進んでいることに感謝の意を述べた。菅義偉官房長官もさすがにカチンときたのか、
「我が国はこの安重根については『犯罪者である』(との立場を)、韓国政府に対してこれまでも伝えてきております」
と、不快感を露骨ににじませた。この「犯罪者」発言が韓国に伝わると、即座に「我が国の独立と東洋平和のために命をかけた人物だ。『犯罪者』と表現することは極めて残念」(韓国外務省)とかみつかれた。中国もこれに参戦、「安重根は歴史上有名な『抗日義士』であり、中国でも尊敬を受けている」との声明を発表する。菅官房長官も同日、
「まあずいぶんと過剰反応だな、という風に思いますよ」
と冷ややかに切り返し、さらに議論が過熱することになる。
韓国では「義士」「英雄」、日本では「犯罪者」――こうした安の「評価」については、日本の国会でも過去に何度か問題提起されたことがある。1984年には社会党の新村勝雄衆院議員が、安を含む韓国統治時代の「政治犯」の名誉回復を提起したが、安倍晋三首相の父・安倍晋太郎外相(当時)は明確な回答を避けた。87年にも「安重根はテロリストに当たるか」が議論に上っている。