ポスティング新制度「白紙撤回」 マー君の大リーグ行き、日米摩擦で暗雲立ちこめる

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   24勝無敗、日本一を勲章に大騒ぎのなかで大リーグに行くはずだった。その田中将大の夢にケチがついた。2013年11月15日の大リーグからの「白紙撤回」の通告である。日本球界のモタモタぶりが原因で、簡単に片づきそうにない。

このままではポスティング制度そのものがなくなる可能性も

   日本の多くのファンは大リーグに挑戦する田中を支持している。大リーガーをバッタバッタと打ち取る勇姿を見たい、堂々と送り出してやりたい、と。田中の夢、ファンの夢がなぜおかしくなったのか。

   コトの起こりは大リーグ側から提案された新ポスティング制度。交渉権を得た大リーグ球団が日本の球団に支払う額を問題とした。たとえば松坂大輔の場合、西武に60億円を支払ったといわれる。それを入札1位と2位の大リーグ球団の入札金額を足して2で割った金額にしたいとの内容だった。

   つまり、選手との契約交渉は別に行われるのは従来通りだが、日本の球団への支払い負担を少なくするというわけである。

   これに待ったをかけたのが日本の選手会。日本野球機構(NPB)に、交渉球団を入札1位球団だけでなく複数球団としてほしい、と申し入れた。

   結局、「2年間認める」との条件付きで受け入れることをNPBに伝えたのだが、その途端、大リーグ側から「提案は白紙撤回する。新たな提案をする」との連絡があり、田中の行方は不透明になってしまった。

   田中は「何も聞いていない」と答えるばかりで、戸惑いは隠せない。日米摩擦にほんろうされ、忸怩たる思いだろう。

   今回のトラブルは日本の選手会が口出ししたことと、NPBの優柔不断の態度に原因があると思う。選手会は「選手のため」と語っているが、これは日米球団のビジネスの問題であって、選手会が介入すべきことではない。

   田中は2015年には海外移籍のFAとなり、だれにも気兼ねなく大リーグ球団の交渉を受けることができる。その場合、楽天には入札金が入ってこない。だから今は、田中の大リーグ行きの意思を尊重している。

   NPBの姿勢もお粗末なものである。日米間の重要問題なのに、専任コミッショナーが不在。あげくは選手会の文句を受け付けるという自主性のなさを暴露した。

   大リーグは日本の選手会に対して不信感を持っている。今年春のWBC開催について昨年、不参加を表明したことがあった。それも選手会とNPBの連絡の悪さが原因で、大リーグからすれば、日本国内の問題を理由にしてきたわけで、選手会の不遜さ、NPBの弱さにあきれているはずである。

   大リーグが新ポスティング制度の提案を、選手会が了承したタイミングをみて撤回を通告してきたのは、WBCの一件が背景にあると考えられる。大リーグはさらに、FA取得の後に選手を取る、と明言しており、そうなると日本の球団には1セントも入らなくなる。

選手会はスター選手の人生設計にまで口を出すべきではない

   ポスティングに関係なく田中が大リーグに行く手立てはある。楽天は田中を自由契約選手にすればいいだけだ。これでは楽天にトレードマネーが入ってこない。ビジネスにならないから田中との契約を破棄することは絶対にない。

   岩隈久志(楽天)と中島裕之(西武)が入札されながら本人の契約が折り合わず、大リーグ行きが1年伸びたことを取り上げ、複数球団との交渉とすべきだ、というのが選手会の言い分である。

   それは本人と球団の問題であって、選手会がとやかく言う資格はない。大リーグからスカウトされる選手は文字通り「選ばれた選手」であって、彼らの人生設計に余計な口出しは無用と思う。箸の上げ下ろしにまで口出しする体質は改めた方がいい。

   日本のドラフトは、新人選手に複数球団との交渉は認めない、とプロ野球側の都合で勝手に決めてアマ選手に押しつけている。そういう実態があるのに大リーグに複数交渉を求めるのは自己矛盾なのではないか。

   選手会は田中のためを思うなら楽天に、田中を自由な身分にしろ、と言うことが役目なのである。80億円以上の契約が予想される田中に迷惑をかけてどうするのだ。

   良い気分で今シーズンを終えた田中にとっては不愉快なオフになってしまった。この問題が大リーガー田中の将来に悪影響を与えないか、心配だ。

(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)

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