再生可能エネルギーで、政府は太陽光に比べて出遅れ感があった風力発電の促進に力を入れる方針だ。環境アセスメント期間の短縮や、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で風力の中でも発電効率のいい洋上風力の価格を上げるなどの検討を始めている。事故も相次ぐなど課題は多いが、再生エネの「本命」として期待は高い。
FITは2012年7月に始まり、太陽光などで発電した電気を、10~20年の長期にわたって決まった価格で買い取ることを電力会社に義務付ける仕組み。その分は毎月の電気料金に上乗せされる。
低コストで大量に発電でき、太陽光より供給が安定している
太陽光、風力、地熱、中小型水力、バイオマスの5種類について建設費用などに応じて買い取り価格が毎年決められ、2013年度の1キロワット時の買い取り価格は、大型の太陽光36円、大型風力は22円、地熱26~40円、中小水力24~34円、バイオマス13~39円程度。
経済産業省の10月4日の発表によると、FITスタートから1年間で、運転を開始した再生エネの設備容量が366万キロワットと、原発3基分に達した。それ以前の累積(約2000万キロワット)から1年で15%増えたことになり、「FITの効果は順調」(同省)。新規の内訳は、太陽光が住宅用138万キロワット、メガソーラーなど非住宅用212万キロワットと計9割以上を占め、独り勝ちだ。
太陽光の急増は、買い取り価格が高く設定されたことが大きいが、設置が容易で建設費も安いことから、建設会社や市民団体などさまざまな業種から続々参入している。家庭でも手軽に設置でき、補助金がつくことも後押しした。
だが、太陽光は日照がないと発電できないため、安定供給には難がある。そこで、世界的には低コストで大量に発電でき、太陽光より供給が安定している風力が再生エネの柱だ。ところが、この1年で運転を始めた風力は僅か6.6万キロワットだけ。2012年度末時点の風力発電の総設備容量は約264万キロワット、総設置基数は1913基(新エネルギー・産業技術総合開発機構=NEDO調べ)にとどまり、6000万キロワット以上の中国などに大きく後れをとっている。
騒音や生態系調査など環境アセスメントに時間がかかる
普及の障害はいくつもある。まず環境アセスメントに時間がかかること。風力発電は、騒音や生態系調査など厳しいアセス実施が義務付けられ、ある事業者は「調査と審査に4年以上かかり、もし追加調査を求められれば、着工はさらに1、2年延期になり、調査費が膨らむ。その間に買い取り価格が引き下げになる可能性もあり、採算見通しが立て辛い」と指摘する。
もう一つ、風力に限らない問題だが、送電網不足がある。電力会社は再生エネで生み出された電力を優先的に接続する義務があるが、「円滑な供給の確保に支障が生ずる恐れがある」場合は拒否できる。天候に左右されがちな再生エネが多くなれば電圧が不安定化する、という理由で接続拒否が横行しているという。小規模分散型の再生エネは、送電線を編み目のように張り巡らせる必要があり、特に風力は人里離れた地域まで送電網を引く必要があるだけに、そのコスト負担の問題は、発送電分離(発電と送電の事業分離)の行方ともからみ、再生エネ普及に大きく影響する。
政府は風力の潜在可能性は高く評価している。環境省の報告書によると、地上風力の導入可能量は全国で1億6582万キロワット。環境省はアセス期間を半減させる試みとして、モデル地区を定めて風の状況や動植物の調査を国が行い、書類審査も短縮する取り組みもスタートさせた。
陸上以上に発電効率がいい洋上風力の促進にも動く。常に風が吹くと期待できるからだ。そこでポイントになるのが買い取り価格で、日本と同様の買い取り制度がある海外では、洋上風力が陸上の1.5倍~2倍という。経産省は5種類に分けた買い取り価格のうち、風力を陸上と洋上に分け、洋上の買い取り価格を陸上の1キロワット時当たり22円より高い30~40円とする検討を始めた。
構造物や羽などが落ちる事故が続発
また、経産省と資源エネルギー庁の委託事業として、世界初の浮体式洋上風力発電設備「ふくしま未来」を開発した。土台から先端までは超高層ビルに匹敵する約120メートルの高さがあり、総重量約2500ト ン、長さ約40メートルの羽根3本を回し、最大出力は2000キロワット。発電した電力を高圧に変換して陸上まで送るための変電設備「ふくしま絆」も併設、こちらも海中に沈む部分を含め高さ100メートルを超える。海底ケーブルを東京電力広野火力発電所(同県広野町)につなぎ、東北電力を通じ、約500~600世帯に電力を供給する予定で、11月11日に運転を開始した。
風力発電は近年、世界で利用拡大に伴って事故も増えている。日本でも3月に京都、4月に三重、9月にも北海道で、それぞれ上部が折れてナセル(発電機などの構造物)が丸ごと落下したり、ブレード(羽)などが落ちたりする事故があった。また、風力と潮流による発電が同時にできる世界初のハイブリッド発電装置が、香川県から実験を行う佐賀県唐津市沖へ輸送中、福岡県の門司港沖で水車部分が海中に落ちる事故もあったばかり。
技術的な問題も含め、課題は少なくないが、福島沖洋上発電が事業者決定から1年半の短期で漁業者らの同意を得て稼働するところまできたのは、国が前面に出て推進したからこそ。再生エネの普及には条件整備を含め、官民の緊密な連携が不可欠だ。