幸福の科学の大川隆法総裁が行う「公開霊言」をテーマにしたイベントが、ネット上で波紋を呼んでいる。これまでのイベントに登場するのは教団関係者ばかりで、いわば「閉じられた世界」存在に近かったが、2013年11月22日のイベントでは、IT関係の著作が多いジャーナリストの佐々木俊尚氏が出演することになったからだ。
佐々木氏は「信徒ではなく宣伝塔でもない」と説明しているが、新興宗教関連のイベントへの出演には困惑する声も多いようだ。
「公開霊言」書籍は3年半で200冊以上
亡くなった人の霊や生きている人の守護霊を呼び出して、聴衆の前で大川総裁を通じて語るとされる「公開霊言」の内容は、歴史上の人物から存命中の政治家まで幅広く書籍化されており、3年半で200冊以上にのぼる。
13年8月19日には、夕刊フジが
「大川総裁は、河野洋平元自民党総裁と村山富市元首相の守護霊インタビューによって、2つの談話の深層に迫った」
として、河野氏と村山氏の霊言を収録した「『河野談話』『村山談話』を斬る!」の内容を報じている。11年8月にも、夕刊フジは大川氏の著書「宇宙人との対話」を紹介する記事を掲載。駅売店の宣伝用ポスターにも、4分の1のスペースを割いて「宇宙人インタビュー成功」の大きい文字を掲げた。よく見ると、このうたい文句の上下には「幸福の科学出版 『宇宙人シリーズ』続々発刊」「『宇宙人との対話』10名様にプレゼント」とある。
いずれも、編集記事の体裁を装った事実上の広告の可能性があると指摘されており、教団がかなりの宣伝費をかけて「霊言」をアピールしているのではないかということをうかがわせる。
半面、書籍の題材にされた人は不快に思っている人も多いようだ。例えば「ニュースキャスター膳場貴子のスピリチュアル政治対話」については、膳場さんが出演するTBSのNEWS23のウェブサイトが
「当番組ならびに当番組の膳場貴子キャスターとは一切関係ありません。膳場貴子キャスターの肖像を使用することも許諾しておりませんし、内容的にも全く関知しておりません」
という注意書きを掲載している。
伝道局長がソーシャルメディアを活用した修行のあり方についてメール
今回波紋を呼んでいるの、佐々木氏が登場するのは、11年に死去したアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏をテーマにした書籍の宣伝イベントだ。幸福の科学IT伝道局の林洋甫局長と佐々木氏が対談する内容だ。林氏は、書籍でジョブズ氏の守護霊にインタビューしたことになっている。
林氏が佐々木氏に対してソーシャルメディアを活用した修行のあり方についてメールを送り、その内容を佐々木氏がメールマガジンで紹介したのがきっかけだ。
イベントは、「『公開霊言 スティーブ・ジョブズ 衝撃の復活』出版記念 ガチンコ対談セミナー」と題して11月22日に行われる。「宗教とテクノロジー」がテーマで、告知ページでは、その具体的内容として
「いかにコンテンツ発信すべきか ――キュレーションについて最新事例を交えながら考察する!」
「企業戦略に生かせるデバイスの未来 ――Googleグラス、スマートテレビなど未来のデバイスとは!?」
「ソーシャル時代をいかにサバイバルするか ――新しい時代に生き残るのは誰なのか?」
「宗教とテクノロジーについて――宗教と科学は共存できるのか!?」
の4つが紹介されている。これらのテーマからは、直接ジョブズ氏の「霊言」を扱うわけではないように読めるが、ページには
「それぞれの立場からメディアの未来を探究する2人は、ジョブズの霊言を題材にいったいどんなアイデアを語るのだろうか」
という表現もある。
「ジョブズ霊について語るのではありません(笑)」
このイベントを知った人の困惑は大きく、思想家の東浩紀さんは
「えええええええ」
とツイート。これに対して、佐々木さんは
「ジョブズ霊について語るのではありません(笑)。宗教とテクノロジの交差する可能性についてのトークをしたいのです」
と返信した。
「もっと真っ当な人だと思ってたのに」
「俊尚さんだいじょぶこの仕事」
といった失望の声や、次々に寄せられる疑問については、
「ギャラは教団から出てます。ただし企業主催などの場合よりかなり低い予算です」
「私は幸福の科学の信徒ではなく、宣伝塔などでもありません」
と説明した。結果的に広告塔として利用されるという指摘には、
「私は純粋に自分の興味と好奇心から出演するだけなので、それを教団側が宣伝に利用されるのは別に構わないと思います。 そんなのどんなイベントでも同じでしょう」
と反論。また、教団の素性については
「現在の幸福の科学はカルトではないと思いますよ。またカルトの定義も国や時代によって変わるし、教団の形態も変化します」
とした。
カルト教団を詳しく扱っているニュースサイト「サリンを撒かなければ何をしてもいいというものではない」
専門家からも批判がある。カルト宗教が専門で、統一教会や幸福の科学に批判的な記事が多いニュースサイト「やや日刊カルト新聞」では、主筆の藤倉善郎氏が
「オウム真理教全盛の頃は、宗教学者や文化人や一部メディアがオウムをヨイショして、後で"おいおい"ってことになったわけです。佐々木氏(実物)は、新聞記者時代にオウム事件を取材していたとか言っているが、取材した割にその辺のことは理解できていないんですね。幸福の科学がサリンを撒くことはないと思うが、言うまでもなく、サリンを撒かなければ何をしてもいいというものではない」
と指摘している。藤倉氏は、教団が運営する「幸福の科学学園」(栃木県那須郡那須町)が、教育基本法で禁じられている政治教育や政治活動を行っているとする記事を週刊新潮で発表している。この記事については教団側が1億円の損害賠償を求めて提訴しており、現在も係争中だ。