日本航空が欧州の航空機大手エアバス社から旅客機の大量購入を決めた。日航はこれまで、大半の旅客機を米航空機大手ボーイング社から調達しており、同社の機材調達の戦略転換は国内航空機市場に影響を及ぼしそうだ。
日航は2013年10月上旬、エアバスから最大56機の旅客機を調達すると発表した。まず次期中型機のA350を31機発注、その後も25機を追発注できる契約を結んだ。現在46機保有しているボーイングの大型機777の後継機に充てる方針だ。
かつては「日米貿易摩擦」解消の切り札
日航のエアバス機購入については、過去に統合した旧日本エアシステム(JAS)では実績があるものの、日航自体としては初めて。日航が機材の調達先をボーイング1社に絞ってきた背景には「政治的配慮がある」(航空業界関係者)とされる。1980年代以降、日米貿易摩擦が大きな問題となる中、対米貿易黒字の縮小に向け、日本が米国の航空機を購入すべきだという議論が持ち上がった。日本の航空業界を代表する日航が率先してこの動きに応じたのは自然な流れだった。
しかし、日航は2010年1月に会社更生法の適用を申請し経営破綻。公的資金の支えなどで何とか立ち直り、2012年9月には東京証券取引所に再上場を果たしたが、「もはや政治的配慮に応える余裕などない」(航空関係者)というのが実態だ。実際、日航の復活を事実上けん引した稲盛和夫名誉会長はコスト削減への強い意識から、「航空機材は複数社から調達することが必要」と主張し続けていたという。
B787のバッテリートラブルも影響
こうした日航の姿勢の変化に、ボーイングの最大のライバル、エアバスが機敏に動いた。エアバスの経営陣は、稲盛氏をはじめ日航経営陣との接触を重ね、日航に対する有利な条件を提示するなどした結果、ボーイングの牙城切り崩しに成功したとされる。
ボーイングが世界市場に投入した最新鋭中型機ボーイング787のバッテリーに絡むトラブルが「日航によるエアバス社への傾注を後押しした」(航空関係者)との見方も根強い。全日本空輸と並び、世界に先駆ける形で787を導入した日航は、787のトラブルの原因究明が遅れる中、約4か月半もの長い間、787の運航停止で苦しんだ。エアバス機の導入でリスク回避を図ろうという考えが働いたのも当然といえる。
ただ、787は「準国産機」と呼ばれるように、機体の35%を日本企業が製造し、日本の技術力で成り立った航空機。ボーイングによる日本企業への信頼と期待があるためだが、「その背景には、日本の航空業界でのボーイング社の高いシェアがある」(航空関係者)との見方は強い。日航の機材調達戦略の転換は、日航自身の今後の経営だけでなく、日本の航空産業全般にどう響いてくるか、関係者は注意深く見守っている。