長らくマイナス圏に沈んでいた物価が上昇に転じてきた。総務省が2013年10月末に発表した9月の全国の消費者物価指数によると、価格変動が大きい食料(酒類を除く)とエネルギーを除く「米国型コア指数」(2010年=100)が前年同月比0.0%(横ばい)と、2008年12月以来4年9カ月ぶりにマイナスを脱した。
「日本型コア指数」(生鮮食品を除く総合)は同0.7%上昇と、4カ月続けてアップ。2008年11月以来の高い伸び率だった8月の0.8%よりも上昇幅はやや縮まったが、物価が上がる傾向は持続している。円安で原材料の輸入価格が上がっている電気やガソリン、食料の値上がりが主な要因で、全体に物価下げ止まりの動きが広がっているとはいえ、本格的なデフレ脱却につながるかは、まだ見通せない。
エネルギー関連が押し上げる
日本型コア指数では、電気代、ガソリン代などエネルギーの値上がりの影響が大きい。9月の電気代は前年同月より7.6%アップ。昨年9月に東京電力が電気料金を大幅に値上げした影響は消えたが、今年9月に北海道、東北、四国の3電力が値上げしたのが響いた。ガソリンも9月は同9.0%上昇した。
米国型コア指数では、8月に21年7か月ぶりにプラスに転じたパソコンやプリンターなどの教養娯楽用耐久財が、9月も前年同月より0.4%アップしており、中でもパソコンのデスクトップ型が同24.7%、ノート型が同12.4%上がったことが、全体を押し上げた。
今後は、円安などコストプッシュ要因と、需要増というデマンドプル要因の綱引きがどうなるか。
政府筋は「10月以降、自動車損害保険料の値上げをはじめ、いくつもの製品、サービスで値上げが控え、上昇が続き、幅は拡大していく」と指摘する。来春の消費増税前の駆け込み需要も物価上昇要因になる。
黒田東彦日銀総裁は10月24日の参院予算委員会で「確かに最近の物価上昇の背景をみると、円安による輸入レートを含めエネルギー関連の押し上げが一定の効果を持つことは事実だが、それ以外にも需給ギャップ改善を受けて、幅広い品目で改善の動きが見られる」との考えを示した。民間シンクタンクでも「エネルギー価格の上昇率が高止まりすること、食料品を中心に原材料価格の上昇を価格転嫁する動きが続くこと、2013年度中は消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあり需給バランスのさらなる改善が見込まれることなどから、コアCPI(日本型指数)の上昇率は年末から年度末にかけて1%程度まで高まる可能性が高い」(ニッセイ基礎研究所)との声が出ている。
賃上げがないと消費は冷え込む
ただ、上昇要因には、「良い上昇」とは言えないものも少なくないし、今後、持続税があるかにも疑問符が付くものがある。
9月の指数を子細にみると、例えばパソコンなどと並び、指数を下支えしているのは、値下がり続きでデフレの象徴とされてきたテレビ。9月は3.7%下落とマイナスが続くものの、下げ幅は地上デジタル放送への移行直後だった2011年9月の25.3%などから考えると大きく改善している。これは「4Kなど高付加価値製品へのシフトで単価がアップしている」(ソニー)ほか、消費増税前の住宅購入の増加で、引っ越しに伴う買い替え需要が要因とみられる。
パソコンなどは部品の大半を輸入して組み立てる ため、メーカー各社が今春から円安によるコスト増分1万~2万円を製品価格に転嫁しているとされる。こう見ると、テレビもパソコンも、消費者の購買意欲が本格的に回復しているかは疑問も残り、今後も持続的な需要増が期待できそうもない。その意味で、需要増に伴う「良い物価上昇」とはいえない。
特に消費税率が引き上げられる2014年度の見通しは慎重な見方がシンクタンクにも強い。消費税率引き上げに伴う景気減速は必至で、影響はや円安効果の一巡なども含め、物価の伸びは頭打ちになると予想され、民間エコノミスト約40人が予想する2014年度の物価上昇率は平均0.76%と、日銀が目指す「2%上昇」は難しいとの見方が大半だ。
そこでカギを握るのは、やはり今後は賃金の上昇だろう。物価だけが上がれば家計を圧迫し、消費は冷え込む。春闘で賃上げ率が1%になった場合、コアCPIを0.5~0.6ポイント押し上げるとの試算もあるものの、「現段階で大幅な賃上げは展望しにくい」(エコノミスト)との見方が一般的で、デフレ脱却は簡単には見通せない。