プロ野球、東北楽天ゴールデンイーグルス初優勝の立役者、田中将大投手がマウンド上で見せる「ガッツポーズ」をめぐり、論議が起きている。
元大リーガーで、読売ジャイアンツのホセ・ロペス選手が日本シリーズ中に田中投手と言い合いになったが、その原因がガッツポーズだった。大リーグでは、暗黙のルールとしてご法度とされるパフォーマンスなのだ。
マウンド上でやってはいけないこと分かっているはず
田中投手は2013年10月27日の日本シリーズ第2戦、巨人打線を1点に抑えて完投勝利を飾った。6回表、2死満塁でロペス選手と対戦、最後は直球で空振り三振に仕留めると、直後にくるりと後ろを向いてこぶしを握り、何か叫びながら腕を大きく振ってのガッツポーズを見せた。これまでも「雄叫び」やガッツポーズはしばしばあったが、これほど派手なのは珍しい。
ところが11月2日の第6戦で「事件」が起きる。この日も顔を合わせた2人だが、第2打席で今度はロペス選手が本塁打を放った。1塁を回ったあたりで田中投手に向かって何やら声を発している。その表情は厳しい。さらに3塁を過ぎてからもまくしたてた。一方の田中投手もロペス選手に言い返しており、険悪なムードが漂っていた。
後日、ロペス選手は田中投手のガッツポーズに対して「チクショーと思った」(デイリースポーツ)、「自分は怒っていない。やられたからチャンスがあったら今度は仕返そうと思っていた」(日刊スポーツ)と報じられた。これだけだと遺恨はなさそうだが、元プロ野球選手でスポーツライターの青島健太氏は、日経BPネット11月5日付掲載のコラムで、ロペス選手の感想をこう伝えている。
「I don't like it.(気に入らないな)彼は一流のピッチャーなのだから、マウンド上でやってはいけないことを分かっているはずだ。私には彼が叫んでいるのも(三振の場面)、はっきりと聞こえた。だから私はどうしても彼から打ちたかった」(注:英訳は編集部)
ロペス選手は2004~12年まで大リーグでプレーし、シアトル・マリナーズ時代はレギュラーを経験している。大リーグには、ルールブックには書かれていないが選手間の暗黙の了解として存在する「アンリトゥン・ルール(Unwritten rules)があり、そのひとつが「投手は相手打者を三振に取った際、派手なパフォーマンスをしてはいけない」だ。メジャー生活の長かったロペス選手の目には、田中投手のふる舞いが「掟破り」と映ったのだろう。
日本ハム時代のアクション抑えたダルビッシュ
大リーグでも、マウンド上でガッツポーズを見せる投手がいないわけではない。例えばテキサス・レンジャースのダルビッシュ有投手。三振を奪うとこぶしを固めて吠える姿を、しばしば目にする。だが、「ルールを破った」として報復されたという話は聞こえてこない。
北海道日本ハムファイターズ時代の映像を見ると、三振を取った後に打者に向かって叫び声をあげたり、腕を大きく振ったりとアクションが大きい。ただ大リーグに移ってからは自重するようになり、ガッツポーズも小さめに変えたという。レンジャース1年目の2012年6月5日付の読売新聞は、「打者の敬意忘れない」と題してダルビッシュ投手がガッツポーズを抑えたり、死球を与えた相手打者に翌日謝罪したりする様子を伝えている。
「もし田中投手が大リーグに渡れば、チームの仲間が(アンリトゥン・ルールを)教えてくれるはず」と話すのは、スポーツジャーナリストの菅谷齊氏だ。派手なパフォーマンスは考え物だが、相手打者は、「自然に雄叫びやポーズが出たのか、自分を挑発してきたのかは区別がつくだろう」というのだ。
とは言え、相手がいつも理解を示すかは微妙だ。事実、投手の行動があわや両チームの乱闘につながりそうだったケースが最近起きている。米国時間10月7日に行われたア・リーグ地区シリーズ第3戦、デトロイト・タイガース対オークランド・アスレチックスの試合で9回、アスレチックスのバルフォア投手が投球後に何かをわめき散らした。
実はこの投手、マウンド上でひとり言葉を発することで知られているようだが、打席にいたタイガースのマルチネス選手は自分に文句をつけたと受け取って言い返した。これが2人の言い争いに発展して一触即発、両軍ベンチから選手たちが飛び出してもみ合い寸前になった。
田中投手は11月7日付の東京スポーツ紙に、「そもそも、あいつ(ロペス選手)に対して(ガッツポーズを)やってないですよ」と弁明した。だが、たとえ「感情が爆発した」「闘志があふれた」結果だったとしても、大リーグでその説明が通用するとは限らない。
大リーガーになれば、「郷に入れば郷に従え」で「ニューマー君」に変身するのか。