北米で販売されている日本酒には大量の防腐剤が入っている――。Yahoo!ニュースにも配信された「エコノミックニュース」の記事に、蔵元や業界関係者から怒りの声が上がっている。
蔵元「南部美人」の専務は「日本酒には防腐剤は一切入っていません」と指摘し、誤解が広がらないよう必死に呼びかけた。記事はすでに削除されているが、日本酒造組合も「抗議を検討中」だという。
防腐剤の使用は40年以上も前のこと
注目を集めたのは、エコノミックニュースが2013年11月2日に配信した記事だ。酒造関係者の話を引き、日本酒の関税撤廃を目指す政府の方針は「現実を知らない絵空事」だと指摘する。TPPで最大の市場となる北米では、日本酒の流通システムが整備されていないため、日本酒に「大量に防腐剤を入れる」必要がある。アメリカやカナダではその薬臭さが問題になっているといい、現地に住む日本人や地元の日本酒好きは手を出さず、飲む人の中には体調を崩す人までいると伝えた。
しかし、記事が指摘する「現実」には首をかしげてしまう部分も多く、特に「大量の防腐剤」は記者の誤解である可能性が高い。日本酒が腐る主な原因は、乳酸菌の一種の「火落ち菌」だが、「火入れ」という加熱消毒を行うことで殺菌している。かつては防腐剤として「サリチル酸」が使用されていたこともあったが、毒性が指摘されたことで1969年には全面禁止に。そして現在、日本酒に防腐剤が使われていないことは一般的にも広く知られている。
念のため日本酒造組合中央会に取材したところ、「日本酒に防腐剤は使っていません。北米に輸出しているもの、現地で生産されているものも同様です」と否定する。その上で「記事は消費者の方々の誤解を招きかねない内容」とし、現在、抗議を検討しているとも明かした。