育所に入れない待機児童が社会問題になるなかで、共働き家庭や一人親家庭の小学生を放課後に校内や児童館などで預かる「放課後児童クラブ」(学童保育)というもうひとつ「待機児童」も増加している。潜在的な待機児童は50万人に及ぶともいわれる。
保育所に預けて働いていた母親が、子どもが小学生になると仕事を続けられなくなる「小1の壁」が高くなりつつある。
原則として小学1~3年生が対象
学童保育は、児童福祉法で位置付けられ、原則として小学1~3年生が対象で、運営費は半分を利用者、残りを国と自治体が負担する。面積基準は児童1人当たり1.65平方メートルという国のガイドライン(努力目標)がある。
厚生労働省の2013年5月1日現在の調べで、学童保育は全国で2万1482カ所と過去最高になった。利用児童数も前年比約3万7000人増の88万9205人と、こちらも過去最高。一方、希望しても利用できない待機児童は8689人で、同1168人の増加。
都道府県別の待機児童数は、東京都が1753人(前年比349人増)と最多で、埼玉、愛知などが続く。政令指定都市で最も多かったのは、さいたま市の428人(同71人増)。千葉、相模原、静岡、堺市も100人以上いた。ゼロは札幌、横浜、名古屋、京都、大阪市など8市あった。
札幌市、京都市は単独で展開
ただ、厚労省によると、政令市でも札幌市、京都市などは、児童館などを中心に、学童保育を単独で展開。一方、「ゼロ」を達成した政令市のうち、名古屋、横浜、大阪の各市は、規模や職員配置の目安のない文部科学省の「放課後子ども教室」(小学校の空き教室を利用)と同じ場所で運営する方法で待機児童を吸収するなど、数字の中身は自治体により差がある。
そもそも、学童保育の入所申し込みは窓口が自治体に一本化されているわけでもなく、厚労省の数値が正確な実態を反映しているとはいえず、潜在的な待機児童は40万人とも50万人ともいわれる。
統計上の問題はともかく、実態として学校施設の活用が、「待機児童問題解決の近道」(全国学童保育連絡協議会)なのは間違いない。特に用地確保などが困難な都市部でその傾向が強い。
世田谷区は空き教室などを活用して希望者全員を受け入れ
その点で成果を上げているのが東京都世田谷区。保育園の待機児童は都内で最多だが、学童保育は「ゼロ」を達成している。区内の小学校64校の空き教室などを活用して希望者全員を受け入れている。保育士や教員免許を持つ人ら550人を非常勤で雇い、午後6時15分まで預かって、月額利用料は5000円。利用登録は約4000人に達する。
同区教委は、児童が増えて空き教室がなくなるなどの事態に備え、学童保育などに使う特別教室確保に努め、校舎建て替えの際には専用の部屋も設けるようにしているという。
ただ、自治体と学校の連携は、言うほど簡単でないとの指摘もある。管理上の責任の問題だ。「教員は忙しく、放課後まで校内に児童が残っていると目が行き届かない恐れがあり、心配だ」(都内のある小学校長)という声がある。予算面でも、学童保育の部屋の清掃などの費用をどうするかなど、「実際に教室活用となれば詰めなければならない問題は次々に出てくる」(同)というわけだ。
保育時間の延長が切実な問題
同時に、数だけではニーズに対応しきれない問題もある。保育所と同様、保育時間の延長は切実な問題。東京都は2010年度から都独自の基準で補助金を上乗せする「東京都型学童クラブ」をスタート。国の面積基準は守りつつ、平日は午後7時以降まで預かるといった基準を設けているのは1歩前進。それでも、例えば、夕食が出ないため、仕方なく夕食を出してくれる民間の学童保育施設に、月額10万円の費用をかけて預けるといった例も珍しくないという。
政府は消費税増税を受けて2015年度から子ども・子育て支援制度を進める中で、学童保育の基準の明確化などを検討する。政府は実際、保育所の整備に力を入れているが、保育所が増えれば、学童保育の利用も当然増えるだけに、厚労省と文科省の縦割りを排し、利用者のニーズをどう組み上げるか、取り組むべき課題は多い。