米携帯電話メーカーのモトローラ・モビリティがユニークなスマートフォン(スマホ)を提案している。利用者の好みに合わせてパーツを組み合わせる、「組み立て式」の端末だ。
かつて携帯電話の世界シェアでトップスリーの一角だったモトローラだが、スマホ時代の到来以降は下降線をたどり、2012年に米グーグルが通信機器製造をになうモトローラ・モビリティを買収した。グーグルはモトローラを通じて、基本ソフト(OS)「アンドロイド」のように、利用者が自分の好みに合わせてカスタマイズできるスマホの提供を目指す。
フレームにカメラ、キーボード、ディスプレーをはめ込む
モトローラ・モビリティが立ち上げた「組み立てスマホ」のプロジェクトは、「Ara」と呼ばれる。2013年10月28日付の同社公式ブログに、その詳細が掲載された。
完成品としての端末の代わりに、電話機本体の土台となるフレームと、スマホを構成する各種デバイスを用意する。電池やカメラ、キーボード、ディスプレーといった機能は、それぞれ箱状にモジュール化されたパーツになっており、フレームにひとつひとつはめ込んでいく。正方形や長方形の大小さまざまなピースを使って、簡単なジグソーパズルをつくり上げるイメージだ。各モジュールは交換可能で、カメラが必要なければ取り外せばよいし、電池を追加して搭載させることもできるようだ。
同様のプロジェクトは、すでに存在している。オランダのデザイナーが立ち上げた「フォンブロックス」というもので、仕組みはこうだ。スマホサイズの、小さい穴が数多く開いた基板が1枚ある。一方、電池からカメラ、アンテナ、スピーカー、ブルートゥース、イヤホンの差し込み口や音量ボタンまでが、「Ara」のようにモジュール化されたパーツに分かれており、それぞれ基板の穴に差し込むための突起が付いている。おもちゃのブロックのような印象だ。
基板の一面に各種機能のブロックを、反対の面にディスプレーを、それぞれはめ込むだけで完成する。着脱が容易なので、たとえばディスプレーが割れてしまった、パーツが古くなった、といった場合にも専門店に行かず、自力で簡単に新品に交換できるメリットがある。利用者の使い方に合わせてカスタマイズすることも可能だ。
配線をはじめ専門的な知識を持たずとも、簡単にスマホを「自作」するという着想は、これまでのメーカー主導による既製品とは一線を画している。
アンドロイド搭載「低価格スマホ」に押されるiPhone
モトローラによると「Ara」は、フォンブロックスのプロジェクト参加者の力を借りながら開発を進める一方、世界中の開発者を募って広くアイデアを集める。無償のボランティア参加を求めるが、特に積極的に協力した100人に対しては、製品化が実現した際に初期版を無料でプレゼントするそうだ。
モトローラの親会社グーグルは、OS「アンドロイド」を無償で提供しており、利用する側が自由に改変できる。Araも同じコンセプトで、ハードウエアの基本内容は無償公開するという。また数か月以内に、開発者にAra向けの各種スマホ機能のモジュール製作を開始するよう呼びかけるそうだ。今冬には、初期版の「スマホキット」を出す予定だとブログで明らかにしている。外部の知恵を活用しながら、今までにないユニークな機能が生み出せるかもしれない。
スマホ市場は当初、米アップルの「アイフォーン(iPhone)」の独壇場だった。だが、無償で改良の自由度が高いアンドロイドが登場するとスマホメーカーが飛びつき、OS別シェアは一気に逆転した。最近では、アンドロイドを搭載した低価格のスマホの需要が高まっており、中国レノボや華為技術(ファーウェイ)といったメーカーが台頭してきた。アップルは最新モデルの「iPhone5s」が好調な半面、直近の2013年7~9月決算で3四半期連続の減益となったのも、スマホ低価格化のあおりを受けたとみられる。「廉価版」の触れ込みで投入した「5c」は、市場拡大を狙った中国では他の安価なスマホと比べるとずっと高額で、販売が苦戦しているとも伝えられている。
OSだけでなくハードウエアでも、「無償提供」を武器にアップルに攻勢をかける――。グーグルがモトローラを買収した背景には、こんな青写真を描いていたからかもしれない。