政府が社会保障制度改革の項目や道筋を定めた「プログラム法案」の臨時国会での成立を目指している。ただ、国民に痛みを求める改革への道筋を描くのは容易ではない。
法案の正式名称は「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」といい、2013年10月15日閣議決定した。
自己負担を引き上げる案が目白押し
「プログラム法」というのは、特定の政策分野について、国の目標や実現に向けた手順などを規定するもの。今回の法案は、来年4月からの消費税増税に伴う社会保障改革のさまざまな施策をいつから実施するかというスケジュールを中心に規定している。実施するには「健康保険法」や 「介護保険法」といった個別分野の関連法の改正が必要になる。
今回の改革は、消費税率を10%に引き上げ、社会保障制度を改革するという2012年の自民、公明、民主3党合意が出発点。合意に基づいて、有識者らによる社会保障制度改革国民会議が設けられ、これが今年8月にまとめた報告書が、法案のベースになっている。少子高齢化で社会保障制度の財政が厳しさを増す中、将来世代へのツケの先送りを避けるための負担増が盛り込まれている。
具体的には、医療では、2014年度から70~74歳の医療費自己負担割合を1割から2割に引き上げ▽2017年度までに、国民健康保険の運営を市町村から都道府県に移管▽高額療養費制度の見直しなどを順次実施。介護では2015年度の介護保険改革で、要介護度の低い「要支援」向けサービスを市町村事業へ移管▽利用者の自己負担を従来の一律1割から一定の所得以上の人は2割に引き上げなど。
ただ、年金については、年金支給額を自動的に削減する「マクロ経済スライド」の毎年実施や、年金の支給開始年齢のさらなる引き上げ、公的年金等控除の縮小による課税強化などについて「検討を加え、必要な措置を講じる」と明記したが、法案提出時期は明示せず、事実上の先送りとした。
また、併せて、首相を本部長とする「社会保障制度改革推進本部」を設け、官房長官や財務相、厚生労働相ら関係閣僚が改革の進展具合を検証するほか、国民会議の後継組織と位置づける有識者による「社会保障制度改革推進会議」を設置することを法案に盛り込んだ。
与党内にも「消費増税と同じタイミングはまずい」
このうち、第1関門が医療分野だ。70~74歳の医療費の自己負担は、法律上は2割だが、特例措置で毎年約2000億円の予算を組み、1割に軽減してきた。現在1割負担の人を2割に上げるのには反発が強いとして、2014年度から、新たに70歳になった人に限り2割負担にする方向。「部分実施」のため、浮く税金は2014年度は最大200億円にとどまる見込みだが、それでも、消費税率が8%に上がるのと同じタイミングだけに、与党内に「半年は遅らせるべきだ」との延期論がくすぶる。
介護では、1割負担と2割負担の線引きをする所得額が大きなテーマ。厚労省はいまのところ、夫婦で年収360万円程度のラインを考えているが、高齢者の負担増につながるだけに、これも与党側からは慎重論が絶えない。
これらのテーマで、仮に与党を説得できたても、消費税増税を踏まえた社会保障制度改革と政府の財政健全化政策の全体像は、なお曖昧なままだ。消費税率を10%に引き上げたときには、うち税率1%分の2.7兆円を社会保障の充実策に振り向けるとともに1兆円超の効率化も必要というのが政府の考え方。「税収を当てにして社会保障改革に手をつけないなら制度がもたなくなる」(財務省幹部)ということだ。
しかし、プログラム法案に明記した政策だけでは1兆円には遠く及ばない。このため、例えば医療機関の患者の平均在院日数の削減などが必要とされるほか、今回先送りされた"本丸"の年金改革を含め、社会保障改革で第2、第3の矢を実行しなければ「持続可能な制度」の実現はおぼつかない。
シンクタンクからは「個々の改革の成果を積み上げた場合の財政への影響や、社会保障給付を最大限抑制したとしても追加の国民負担増が発生するならばその規模など、早期に議論を開始すべきである」(大和総研)との指摘が出ている。
自民党は参院選で社会保障改革に伴う負担増が争点化するのを巧みに避けたが、これからは逃げてはいられない局面に差しかかる。高齢者に負担をどこまで求めるか、安倍政権の実行力が問われることになる。