待機児童の解消に向け、全国に保育所が作られ、保育士不足が深刻になっている。そんな中で、クローズアップされてきたのが「潜在保育士」の存在だ。保育士の資格があるのに、保育士として働いていない人たちのことだ。
就業を希望しない理由は「賃金が希望と合わないから」。厚生労働省は、このままでは保育士不足が改善されないし、待機児童の解消もできないとして、保育士業界の賃金引上げに取り組み始めた。
「コンビニやスーパーのバイトよりも時給が安い」
「潜在保育士」はなぜ、保育士として働かないのか。2013年5月、待機児童が50人以上存在する市および特別区を管轄するハローワークで、「潜在保育士」を対象とした調査が実施された。女性930人、男性27人が回答した。
「保育士への就業を希望しない理由」(複数回答可)で最も多かったのが、「賃金が希望と合わない」(47.5%)。約過半数が選択しており、「他職種への興味」(43.1%)や「責任の重さ・事故への不安」(40.0%)を上回っている。若い年代ほど回答率が高く、20代では57.9%、30代では56.0%を占めていた。
保育士資格保有者を対象に厚労省が行った別の調査では「資格なしの人と給与差がない」「資格を持つ専門職としては安く、コンビニやスーパーのバイトよりも時給が安い」「給料見直しで給料が下ってきている」といった給与面での不満が多く挙がっていた。
保育士の待遇状況を知るには、まず保育所の種類を理解する必要がある。保育士が働く保育所は大きく分けて「認可保育所」と「認可外保育所」がある。前者は都道府県が定めた基準を満たし自治体が認可している施設で、全国に約2万3000か所(平成24年3月1日現在)存在する。「認可保育所」はさらに、地方自治体が運営する「公立保育園」と、社会福祉法人や企業などが運営する「私立保育園」に分けられる。施設数はほぼ同数だが、正規職員としての給料には大きな差がある。
公立保育園で正職員になる場合は、地方公務員として働くことになる。給料も公務員としての金額だ。東京都練馬区を例にみてみると、23年度実績で公務員保育士の平均月額給与は31万2206円。年間平均給与額は約628万円(諸手当を含む)となっている。一方、私立で働く保育士は、厚労省の「平成24年度 賃金構造基本統計調査」によると、月額給与は平均21万4200円、平均年収は約315万円(短時間労働者を除く)。全業種の平均賃金と比べても、月額給与で約9万円低くなっている。昇給幅も公務員保育士に比べて小さく、年収400万円台に到達するのは女性の場合、55~59歳になる。