国会同意人事のひとつであるNHK経営委員にも、「安倍カラー」が強く反映されることになりそうだ。安倍内閣が2013年10月25日に提示した人事案に含まれていたのは、作家の百田尚樹氏をはじめとする「保守派」色の強いメンバーだ。
その中には、12年9月の自民党総裁選で安倍氏の立候補を求めた人や、かつての安倍首相の家庭教師もいる。「お友達人事」として早くも批判が出ており、菅義偉官房長官が火消しに走る事態になっている。
05年には、安倍氏が従軍慰安婦をめぐる番組でNHKに圧力をかけたと朝日新聞が報じ、NHKと安倍氏が否定する騒動もあった。こうした経緯があるだけに、安倍首相の意向が強く反映された今回の人事案で、政権とNHKの緊張関係も先鋭化しそうだ。
経営委員会が会長の任命権を持っている
経営委員会はNHKの最高意思決定機関にあたり、執行部トップの会長を任命する権限を持っている。会長の選任には、定数12の経営委員のうち9人以上の同意が必要だ。松本正之会長は14年1月に任期満了を迎える予定で、今回の人事案が次期会長の人選に与える影響は大きい。
経営委員長は経営委員の互選で決まることになっており、13年7月に浜田健一郎・ANA総合研究所会長が再任されたばかりだ。
今回の人事案では、デビュー作「永遠の0」などで知られる百田氏以外に、哲学者の長谷川三千子氏、海陽学園海陽中等教育学校長の中島尚正氏、日本たばこ産業(JT)顧問の本田勝彦氏を新任。13年12月で任期が切れるJR九州会長の石原進氏を再任する。
10月25日夕方に開かれた菅官房長官の会見では、新任される4人のうち3人が安倍首相と近い関係にあることが指摘され、菅長官は釈明に追われた。
まず、百田氏と長谷川氏は「2012年安倍首相総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人に名を連ねている。安倍首相と百田氏は雑誌「WiLL」12年10月号に続いて 13年10月号でも対談したばかり。13年10月号では、安倍首相が
「以前から私も百田さんの小説の愛読者でしたから、百田さんのような方に『もう一度、自民党総裁選に出馬して総理を目指してもらいたい』とおっしゃっていただいたことは、本当に勇気づけられました」
と感謝の言葉を述べるほどだ。百田氏は、いわゆる「自虐史観」を一貫して批判している。
長谷川氏は婚外子相続めぐる違憲判決を批判
長谷川氏も保守派の論客として知られており、例えば非嫡出子が相続できる遺産が嫡出子の半分になる民法の規定を違憲だとした最高裁判決を、
「国連のふり回す平等原理主義、『個人』至上主義の前に思考停止に陥った日本の司法の姿を見る思いがします」(2013年9月12日、産経新聞「正論」)
と批判している。会見では、
「長谷川氏は女性の社会進出に否定的な発言をしている。これは総理が目指す、女性の社会進出を目指す政策と、果たして一致するのか」
という批判も出たが、菅官房長官は
「大変な活躍をしており、まさに自立した女性のひとつの代表的な方なのではないか」
と苦笑いしながら強弁した。
菅官房長官「自分がよく知っている人でないと推薦できないというのは当然」
本田氏は、安倍首相が小学生だった1960年代に家庭教師を務めていたことで知られている。その後任の家庭教師が平沢勝栄衆院議員だ。
この人事の「お友達」批判には、菅官房長官は「それはまったくない」と断言。
「(人事案を)自信をもって推薦するというのは、やはり自分がよく知ってらっしゃる方でないと、なかなか推薦できないというのは当然のこと」
と述べ、安倍首相との距離の近さを正当化した。
経営委員会の定数は12だが、13年8月に日本ガイシ元社長の松下雋(しゅん)氏が、オムロン出身でルネサスエレクトロニクスの会長兼最高経営責任者(CEO)の作田久男氏が9月にそれぞれ退任したため、現時点では10人で構成されている。13年12月には3人が3年の任期満了を迎えることになっており、今回の人事案にあるように石原進氏が続投。香川大学名誉教授の井原理代(みちよ)氏、東北大学大学院経済学研究科教授の大滝精一氏は退任する見通し。退任する井原氏は08年には「男女共同参画社会づくり功労者」として、福田康夫首相(当時)から表彰されていた。