対応が悪いなどとして、店員や教師らに土下座を強いる事件が相次いでいる。テレビドラマなどの影響はあるのだろうか。
TBS系で放送され大ヒットしたドラマ「半沢直樹」の2013年9月22日最終回では、主人公が銀行上司の大和田常務に土下座を迫るシーンが話題になった。
「半沢直樹」の影響ではとの声もあるが…
それとは状況が違うが、土下座を強要して逮捕される事件が最近増えてきている。
滋賀県大津市では、小学校女子児童の保護者の女(41)が強要や傷害などの疑いで大津北署に逮捕された。容疑は、9月30日、「娘がいじめられた」として、担任教諭ら2人を叩いてけがを負わせたうえ、「お前らのやってきたことを土下座して謝罪しろ」と強いたというものだ。大津北署によると、言葉による暴力で教諭らを怖がらせて、義務のない土下座までさせたことが強要に当たるという。
また、佐賀市では、電気料金の徴収に来た九州電力社員らに無職の男(41)が脅迫や強要などを行った疑いで佐賀署に逮捕されている。このケースでは、9月24日、男が「電話もかけずに家に来た」と腹を立て、さやから抜いた日本刀見せ、「2人で土下座して謝れ」と強要した疑いが持たれている。
土下座といえば、札幌市内の「ファッションセンターしまむら」で女性店員2人に土下座させた写真がツイッターにアップされ、大騒ぎになったことが9月下旬にあった。10月7日になって、介護職員の女(43)が札幌・東署に強要の疑いで逮捕される事態にまでなった。
この事件は、「半沢直樹」のドラマで大和田常務が主人公に土下座を強いるシーンを流した9月1日放送の2日後に起きたことから、ネット上では、ドラマの影響ではないかとの声も上がっていた。
ドラマ最終回の後に、大津や佐賀の事件も起きているが、一連の事件にドラマの影響があった可能性というのはあるものなのだろうか。
「学校のいじめと一緒なんですよ」
しかし、しまむらの事件でも、2013年10月22日夕現在まで、そうした報道などは出ていない。大津北署や佐賀署に取材しても、ドラマの影響は分からないといい、犯行の動機についてはこれから調べに入るとのことだった。
もっとも、土下座については、漫画や映画など様々なメディアで最近目にすることが多い。
漫画では、「どげせん」「謝男(シャーマン)」といった作品、映画では、宮藤官九郎さん脚本の「謝罪の王様」が土下座を直接的なテーマにしている。また、ほかの漫画などでも、土下座のシーンは絵になりやすいためか、目にする機会は多いようだ。
NHKの番組「クローズアップ現代」で2013年10月8日に放送された「氾濫する『土下座』」によると、1996年の薬害エイズ事件で製薬会社が被害者に土下座して以来、テレビでもこうしたシーンが増えてきた。最近では、原発事故で東京電力の幹部らが土下座したことが話題になった。
番組では、東京大学史料編纂所の山本博文教授が土下座の歴史を解説し、江戸時代に大名らの参勤交代で農民や町人がしていた儀礼が、現在は相手に対する制裁のようなものにも変わったと指摘した。また、映画監督の森達也さんは、謝罪ではなく屈服になっているとして、「学校のいじめと一緒なんですよ」とした。「つまり、それを排斥する過程の中で、自分たちは多数派としての実感を持てるわけです、安心できるわけです」という。
土下座強要の続発は、ドラマや漫画などの影響というより、こうした心理が働くことから来ているのかもしれない。