通信大手3社が、年末商戦に向けたスマートフォン(スマホ)の新機種を相次いで発表した。米アップルの「アイフォーン(iPhone)5s」「5c」と合わせて、ラインアップが出そろった。
注目は各社とも「ガラケー」と呼ばれる従来型携帯電話の新モデルを投入した点だ。スマホへの移行を進める中、逆行とも思える施策をとったのはなぜか。
「スマホ撤退」のNEC、パナソニック製端末
調査会社MM総研が2013年10月9日に発表した「スマートフォン市場規模の推移・予測」によると、9月末のスマホ契約数は5015万件、ガラケーは6862万件となった。現段階ではガラケー利用者が6割近い。2014年度中にはスマホの契約数が過半数に達する半面、2018年3月末時点でもガラケーは3割強残っていると予測する。
iPhone人気や、米グーグルが開発した基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したスマホの開発が進み、2011年以降は通信各社がスマホ販売に軸足を移した。確かに家電量販店や通信各社の販売店では、ガラケーの取り扱いは以前よりもずいぶん減ったが、完全に消えたわけではない。2013年10月10日に冬春モデルを発表したNTTドコモは、1年ぶりにガラケーを復活させた。発表された2機種が、スマホから撤退したNECと、個人向けスマホの開発を休止するパナソニックの製品というのも象徴的だ。2社はガラケーで一時代を築いている。
ドコモの加藤薫社長は、ガラケーを再投入した理由について「ユーザーから要望が寄せられた」と説明した。ドコモ広報はJ-CASTニュースの取材に、特に長年契約している顧客のリクエストが多かったと話し、「操作性が変わらず、使い慣れている安心感から(ガラケーを)求めているようです」と付け加えた。使用目的が通話中心で、インターネット利用が少なければ、改めて操作方法を覚えなければならないスマホに変えたくないのもうなずける。
KDDIとソフトバンクモバイル(SBM)も、新規のガラケー端末を出した。SBMの孫正義社長は「世の中には『スマホはいやだ』という人もいる。その人のためにも」と新商品発表会で話した。スマホの普及が急速に進んでいるとはいえ、完全にガラケーをなくしてしまえばその利用者層が他社に流出しないとも限らず、各社の「綱引き」が続く。
料金面よりも慣れ親しんだ使用感を求める
通信各社はスマホの販売に注力しているため、端末料金はガラケーの方が高額になる心配はないのか。ドコモ広報に聞いたところ、契約形態によって金額が変わるので一概には言えないが、今回発表されたシャープの「アクオスフォン」や富士通「アローズ」といったスマホを新規契約すると、機種料金は1万円程度になる。これに対してガラケーは1万円台半ばだそうだ。ガラケーからガラケーへの変更なら、2万円近くに上る。「iPhone5s」なら、モデルによっては「実質ゼロ円」で契約できるため、金額差はさらに大きく開く。
月々の通信料金はどうだろう。ドコモのスマホを2年間契約すると、通話料は基本料金780円に通話した分の金額が加算される。データ通信料は、データ量の制限の有無、定額制もしくは使用量に応じた2段階制、さらに使用機種によっても違うが、基本的には月額4935円~5985円だ。ネット接続をメーンに使うスマホは、定額制を選ぶ利用者が主流だろう。
ガラケーは通話を主目的とした端末として進化してきたこともあり、料金体系は通話の重要性を意識した設定といえる。機種が限定されるが、通話料金を含む月額基本使用料で最も安いものだと1957円だ。これは1050円分の「無料通話」も含まれ、通話をこの範囲内で収めれば追加料金はかからない。これに、「iモード」で接続するためのデータ通信料が加算されるが、その額は月々4410円となっている。
単純に双方を比べると、データ通信料ではガラケーの方が若干安い。通話料は利用回数や通話時間が大きく左右するのでケースバイケースだが、基本料金だけを見るとスマホの方が下回る。総合的に考えると、月額使用料で大きな差が出るというわけではなさそうだ。実際にガラケーを希望する利用者は、「(端末代や月額の支払いの)金額というよりは、慣れ親しんだ使用感を求めるケースが多い」とドコモ広報は説明する。
近年では、中古のガラケー端末を取り扱う専門店も出てきた。新商品のリリースが先細りするなか、「スマホに変えたくない、でも機種変更したい」という層を引き付けているとみられる。市場は縮小傾向だが一定の規模を保ったままで、通信各社も「無視できない」とばかりに新製品投入を続ける判断を下したようだ。