2004年に死亡したパレスチナ自治政府のヤセル・アラファト議長の死因を巡って、ささやかれていた毒物による暗殺を裏付ける報告が英医療専門誌に掲載された。
スイスの専門チームが、アラファト議長の遺品から毒性の強い放射性物質「ポロニウム210」を検出したという。これに先立ち2012年には、中東カタールのテレビ局「アルジャジーラ」が調査報道により、同じ結果を報じていた。
入手するには専門家と大型の特殊装置が必要
アルジャジーラは議長夫人の協力を得るなど9か月間にわたって徹底調査し、番組内容を2012年7月4日付の記事とともに、インターネット上で公開している。議長の遺品をスイスの医療機関に持ち込み、帽子や下着に付着していた髪の毛や血液などを採取して検査した結果、議長が使っていた歯ブラシや下着、入院後に使っていた病院用の帽子に付いていた血液など複数から非常に高いレベルのポロニウム210が検出されたのだ。
ポロニウムとは、キュリー夫妻が発見した放射性物質として知られる。原子力資料情報室のウェブサイトでの説明によると、毒性の高い元素で、半減期は138日と短く、体内に取り込んだ場合はアルファ線による被ばくの影響が強い。入手方法は「天然ウランから分離する方法と原子炉または粒子加速器を用いる方法」だが、いずれも「専門知識と技術をもつ人材と大型の特殊設備が必要」で、すなわち「国が補助している組織が関係していると考えるのが自然」としている。さらに、わずか1グラムでも入手するのは困難だという。
ポロニウム210はポロニウムの同位体だ。旧ソ連の諜報機関に勤務していたアレクサンドル・リトビネンコ氏が英国に亡命し、反ロシア政府の論陣を張っていた2006年、何者かによって毒殺されたが、この時に用いられたのがポロニウム210とされる。
2012年11月、議長の遺体は夫人ら家族の同意を得て掘り起こされ、スイスとフランス、ロシアの専門家チームにより死因に関する調査が行われた。スイスの研究者たちは2013年10月12日、英科学誌「THE LANCET」に報告書を掲載、そこには「議長の所有物からポロニウム210が検出された」と書かれている。一方、ロシアのチームは10月15日までに「ポロニウム検出されず」と全く逆の見解を発表したと、ロイター通信が伝えた。