2020年の東京五輪の開催に向けて、都市交通網の整備が動き出す。海外や地方都市と東京、選手村や宿泊施設と競技会場を便利につなぐため、老朽化した首都高速道路の改修や鉄道網の整備、羽田や成田空港の拡張・整備などが必要だ。
東京五輪は、多くの競技会場が半径8キロ以内に収まる「コンパクトな五輪」。招致が決まった国際オリンピック委員会(IOC)総会では、優れた大会運営能力が勝因のひとつだった。成功には、混雑解消やスムーズな輸送が欠かせない。
「羽田‐成田」を1時間未満、前倒し実現へ
1964年の東京五輪に向けて整備された交通インフラに、「東京モノレール」がある。東海道新幹線の開業の陰に隠れてしまっているが、羽田空港と東京都心を結ぶ重要な交通手段として誕生した。
ちなみに、首都高1号線(羽田‐江戸橋間17キロ)も東京五輪を機に整備され、羽田空港から都心への輸送力のスピードアップに大きく貢献した。
2020年の東京五輪では、羽田‐成田間を1時間で結ぶ「都心直結線」構想が、にわかに現実味を帯びてきた。
この構想は東京駅近郊、丸の内周辺地下に新東京駅を建設。京成線の押上駅と京急線の泉岳寺駅を結び、約11キロメートル間を整備する。現在は90分以上かかる羽田‐成田の両空港を直通で結び、乗車時間を1時間未満に短縮する。
東京からは羽田までが27~36分程度から18分に、成田までが53分~55分のところを36分に短縮。いずれも現在1回乗り継ぎが必要なところを乗り継ぎがなくなる。
当初は2013年秋から地質調査を開始し2020年以降の開業を目標としていたが、五輪開催が決まり、弾みがつきそうだ。
新たな湾岸へのルートとして期待されるのが、東京メトロ半蔵門線・住吉駅‐東西線・東陽町‐有楽町線・豊洲駅をつなぐ地下鉄8号線。沿線にあたる江東区は「新駅」の設置にも注目。地域の起爆剤にと期待する。
また、選手村などが設けられる中央区が独自に計画しているのが路面電車の復活だ。中央区は晴海をはじめとした湾岸地域の開発で人口が大幅に増加中。ところが、区内の有楽町や銀座界隈と晴海周辺を結ぶ交通手段は都営バスに頼っているのが現状。アクセスが悪いうえ、道路は渋滞。地下鉄も人口が増えて混雑が絶えない。
そこで地元住民からの要望が多く、環境に優しい公共交通手段である次世代路面電車(LRT)の導入を目指すことを打ち出した。すでに2011年から予算を計上し調査を進めており、五輪に便乗して実現を目指す。
羽田空港、5本目の滑走路は五輪に間に合わない?
羽田空港周辺、大田区が調査中の京急空港線と東急多摩川線を地下で直結させる新空港線「蒲蒲線」構想も勢いづく。
空港から田園調布駅(東横線・目蒲線)まで31分(現在は50分)、練馬(西武池袋線)までは1時間8分(同1時間11分)と時短にはなるが、わずか800メートルの「接続」に1080億円の事業費がかかるとなると、必要性や費用対効果に首をかしげる向きは少なくない。
一方、海外からの選手団や観客を迎える「玄関口」、羽田空港と成田空港。国土交通省による首都圏の航空需要予測によると、今後10年で国際線は最大80%増加。この予測で行くと、2020年の東京五輪の開催時には発着枠が足りなくなる恐れがあるという。
羽田空港に5本目の滑走路をつくれば発着数が大きく増やせるが、それには埋め立てが必要で、そうなると騒音や漁業補償など周辺地域との調整が必要になるし、工事が実現したとしても五輪までに工期が間に合わない可能性が高い。財源も乏しく、実現に向けたハードルは高い。
そこで浮上してきたのが、東京都が提唱する「横田基地」の軍民共用化案だ。東京都の猪瀬直樹知事は、羽田空港で滑走路の増設が検討されていることについて「五輪までに間に合わないのであれば、お金をかけるということではなくて発想を変える」と指摘。東京都の試算によると、2020年の東京五輪効果を除いた、横田基地の軍民共用化による国内航空旅客需要の予測(2022年度)は約560万人(7路線40往復として予測)、経済効果は約1610億円とみている。
また、こうした都市基盤整備が五輪に向けて集中することで、資材コスト等の値上がりは避けられないともみられ、建設関係者の間では早くも事業費予算が脹らむ可能性も指摘されている。