米カリフォルニア州「シリコンバレー」にあるミルピタス市で、戦時中の「従軍慰安婦」の問題について市議会が米政府に調査を依頼する決議を採択した。大阪市の橋下徹市長が2013年5月、慰安婦制度は必要だったと発言したことが原因となっている。
米国では近年、在米韓国人団体が中心となって慰安婦の記念碑や像の建設を働き掛け、すでに数か所で実現している。ミルピタス市も、慰安婦像の設置構想が動いているとのうわさが持ち上がっている。
在米韓国大使が市長と記念写真
ミルピタス市議会が米国時間2013年8月6日に決議したのは、「第2次世界大戦における性奴隷制度と大阪市長による関連発言」と題された内容だ。「慰安婦」を表す際に用いられる「comfort women」ではなく、「sex slavery」との表現が使われている。「歴史学者によると戦時中、20万人の女性が『慰安婦』と呼ばれる性奴隷状態に置かれた」と説明、韓国人だけでなく日本人や中国人、オランダ人など多くの国の女性を含むとした。
決議では、橋下市長が5月の記者会見で慰安婦問題について、戦場にいる兵士を「休息」させるためにも必要だったとの趣旨を話したことを取り上げた。さらに「各国政府から非難されたにもかかわらず、本内容を撤回していない」と指摘した。
「これまでに分かったことが事実なら」と前置きしたうえで、議会は橋下市長の言動に抗議すると同時に、戦時中日本が「慰安婦制度と称して占領地で女性を強制的に性奴隷として扱い、さらに今日の日本政府がこのような非人道的行為の責任を認識していないことも非難する」という。続けてオバマ大統領と米議会に対して、橋下発言に関するさらなる調査を徹底するよう要求し、事実が裏付けられた段階で橋下市長と日本政府に対して公式に抗議、謝罪を求めるとした。
決議内容に関して議員による討論や市民の意見聴取はなく、採決も取らずに市長が署名した。実はこの日、議場には在米韓国大使と「米州韓人会総連合会」の代表者が招かれていた。朝鮮戦争休戦60年を記念して現地の人をねぎらう意味合いもあったのだが、ふたりは決議文を手に持って市長と記念写真に収まった。大使は慰安婦問題について「韓国だけでなく、中国やインドネシア、フィリピンなど多くの国を含む問題」とあいさつしたが、なぜ韓国大使が被害者を「代表」して決議の場に立ち会ったのかは不明だ。
慰安婦問題で対日強硬派議員のおひざ元
決議を期に、インターネット上にはミルピタス市にも従軍慰安婦の像が建てられるのではとのうわさが広がった。同じカリフォルニア州のグレンデール市に6月、慰安婦像が設置されたこともあり、このような動きが加速するのではないかとの見方だ。
ミルピタス市と姉妹都市として交流のある茨城県つくば市は9月5日、決議に関してホセ・エステベス市長に見解を確認し、内容をウェブサイト上で発表した。「現時点でミルピタス市はいかなる(特定の)立場もとっておらず、今後これ以上の動きをとる予定はない」という。「市が慰安婦像を建てる」とのうわさが流れていることは知っているとしながらも、「このような事実は全くなく、検討したこともない」と全面的に否定している。
2010年実施の米国勢調査によると、ミルピタス市の人口は6万6790人で、うちアジア系が4万1536人と全体の62%を占める。割合そのものも大きいが、10年前の2000年は52%だったことを考えると急速に膨れ上がっているのだ。民間の人口データを見ると2000年当時はフィリピン系が最も多く、中国系やベトナム系が続く。韓国系はむしろ少数派だ。いずれにしろアジア系の影響力が強い街なのは間違いない。
ミルピタス市にはもうひとつ、特徴がある。慰安婦問題について対日強硬路線をとるマイク・ホンダ下院議員の選挙区なのだ。ホンダ議員は2007年、日本政府に対して元慰安婦に謝罪を求める決議案を下院に共同提出した。橋下市長の発言に対しては「卑劣で不快」と厳しく批判、また2013年6月28日付の朝日新聞のインタビューでは、「(米国)各州の議会に慰安婦に関する決議を働き掛けている」と明かしている。ミルピタス市は州ではないが、ホンダ議員のおひざ元だけにその影響力は無視できなさそうだ。
ホンダ議員のフェイスブックには、10月16日付で、韓国女性家族相・趙允旋氏と面会して、慰安婦問題で日本政府の謝罪の重要性について話し合ったと書かれていた。趙氏は10月11日にニューヨークで開かれた国連総会で、慰安婦問題について日本政府の姿勢を厳しく批判した人物だ。
アジア系が6割を占める自治体、慰安婦問題で急先鋒に立つ大物議員の存在、市議会の決議の日に招かれた韓国大使と在米韓国人団体の代表者――。諸条件を考えると、ミルピタス市ではこれからもひと波乱ありそうだ。