漫画家の吉田戦車さん(50)が、94歳で亡くなったやなせたかしさんの仕事ぶりについて、ツイッターで地方自治体などにかみついた。やなせさんは晩年、キャラクターデザインを無償で引き受けていて、「タダ働き」に甘えてきた多くの自治体や組織は「恥じろ」と書いたため、ネットで賛否の議論に発展している。
やなせさんは高知県などにキャラクターを計200以上も提供してきたとされるが、その多くは無償だったという。
「大御所がタダで仕事を引き受けるのはやってはいけないこと」
吉田さんのつぶやきは、コピーライターの糸井重里さん(65)との対談記事をフォロアーから紹介されたことがきっかけだった。
「やなせたかしさんの対談いくつかを読むにつけ、あの人の『タダ働き』に甘えてきた多くの自治体とか組織は恥じろ、と思いますね。(ボランティアが適切である場合は、もちろん除いて)」
と書いた。フォロアーから「本当にタダで働いていたのか?」と質問されると、
「全国のご当地キャラ200ぐらい描いて、2か所はギャラくれたそうです」
と明かした。そして、タダで引き受けまくったやなせさんも良くなかったといえばよくなかったかもしれない、としたうえで、
「そこに甘えて描かせたほうの気軽さはちょっといやだ」
と改めて無償で仕事を依頼した自治体などを批判した。美容外科医の高須克弥さん(68)も、
「そうだね。『わーかっちゃんだー ただで整形してー』」と言われるのはちょっといやだね」
などと賛同した。
吉田さんのツイートにネットでは様々な議論が起きていて、
「自分の不満をやなせたかしに代弁させるのは良くない」
「俺に有償の仕事を回せ、ってことだろ」
といった批判もあるのだが、多くは吉田さんの意見は正論だと評価している。
「大御所がタダで仕事を引き受けるのはやってはいけないこと。大金持ちのパン屋がタダでおいしいパンを配りまくったら 他のパン屋は立場がない」
「やなせさんみたいなトップのトップがただ働きしたら、業界全体の単価が下がるだろ」
「アンパンマンみたく無償の愛下さいよ、って頼む奴は本当恥知らずだと思う」
などといった意見がツイッターやネットの掲示板に出ている。
「先生がアンパンマンです」と糸井重里
今回の議論のきっかけになったのは、ネット媒体の「ほぼ日刊イトイ新聞」に2013年8月に連載された糸井さんとやなせさんの対談記事「箱入りじいさんの94年」。やなせさんは自分が作ったご当地キャラ約200について、
「これが、全部、タダ。あっはっは。ただね、2つぐらいはお金をくれたんだよね」
などと語っている。役人が4人で頼みに来たこともあり「ところで、予算がないので、原稿料はタダです」と言われ、「えっ、タダですか。私もね、これは仕事でやってるんで、いくらかはもらわないと」などと言い返したこともあるという。
「すごく軽く見られてる」のかもしれないが、それでも引き受けてしまうのは、
「俺は巨匠にならないと決めたんだから、くだらない仕事であろうとやらなくちゃいけないなと」
ということなのだそうだ。キャラクターだけでなく、企業から依頼された仕事も自身の持ち出しになることも多々あった。ファンとの懇親会も年に一回開いているのだが、参加料は無料で、出演する声優さんにはそれなりのギャラを支払ったという。タダ働きどころか自分からお金を出したりしているわけで、糸井さんが、
「先生がアンパンマンです。みんな、顔を食べちゃっていいよっていう」
と語ると、やなせさんは、
「俺はアンパンマンみたいな人間じゃないと思ってたんだけど、現実にはね、どうもそうなってしまってね。稼いでも稼いでも人のために金遣っているんです」
と答えていた。