安倍晋三内閣が進める雇用改革で、「解雇特区」をめぐる議論が白熱化している。人材派遣などについては規制緩和がかなり進みそうだが、正社員に関する規制見直しでは政府内の意見もまだ割れたまま。秋の臨時国会に政府が提出する国家戦略特区関連法案に、どこまで盛り込めるか、見通しは立っていない。
「国家戦略特区」は、「地域の要請」という形で進めてきた従来から「特区」とは異なり、安倍内閣の成長戦略の一環として国が主導するもで、「雇用」「農業」「教育」「医療」の「岩盤規制」を打ち破ろうというもの。その中で雇用、特に解雇規制を緩めることが最大の焦点になったことから、「解雇特区」の異名が生まれたもので、雇用に絞った特区というものではない。
「正社員化」しないことを従業員に事前に約束させる
政府は内閣府に国家戦略特区ワーキンググループ(WG、座長・八田達夫大阪大招聘教授)を設けて検討してきた。WGは2013年10月4日、特区への導入を目指す雇用分野の特例措置を発表。(1)解雇ルールを契約書面で明確にする(2)有期契約で5年超働いた人が無期契約になれる権利をあらかじめ放棄できるという、2点を打ち出した。ただし、各方面の反発を考慮し、特例措置の適用対象は外国人従業員の比率が一定以上の企業か、開業から5年以内の企業、対象となる従業員も弁護士や会計士など一定の専門資格取得者か修士号・博士号取得者に限定するとした。
これによって「企業が優秀な人材を集めやすく、優秀な人材が働きやすい制度環境」を整えるとしており、具体的には、外資の日本進出を促し、衰退産業から成長分野への労働者の移動を進めるのが大きな狙いだ。
(2)の有期契約の無期契約化は、労働契約法の改正で13年4月から、有期契約を繰り返して通算5年を超えた従業員は、企業に申し込めば無期契約に転換できるようになったことを指す。これについて特区では、無期転換しないことを従業員に事前に約束させることを認めるとした。(1)の解雇の要件や手続きを契約書面で明確化することと併せ、個々の事例が使用者の解雇権の乱用にあたるかどうかを問う訴訟の提起を抑え、企業が従業員を採用しやすくするという考え方だ。