いま、証券会社や銀行はどこも見ても「NISA」ばかり。ポスターやリーフレットは当たり前として、マネー情報誌の広告も、家庭に届くダイレクトメールや電話での営業、インターネットのメールまでも、「早く口座をつくれ!」と催促する。
そもそも「NISA」は、「毎年100万円まで」の非課税投資枠が設定され、投資金額100万円までの上場株式や投資信託への投資で得た利益や配当に税金がかからない「少額投資非課税制度」のこと。税金がかからないとは「おトク」だが、そんなにおトクなことばかりなのか――。
金融機関選びにつまずくと取り返しがつかない
2014年1月からはじまる「NISA」、少額投資非課税制度にともない、証券会社や銀行は「NISA口座」の獲得に躍起だ。しかし、「だいたい金融機関が『おトク』『おいしい』といって、本当におトクだったためしがない!」――。そんなことを思っている個人投資家も少なくないのではないか。
「NISA」をよくみると、たしかに厄介なこと、「おいしくないこと」もありそうだ。
まず、「1人1口座」しかつくれない。そうであれば、「ふだん使っている銀行や証券会社でいいや」と思うかもしれないが、最初に注意したいポイントがここ。なぜなら、「金融機関によって取り扱っている金融商品は違う」からだ。
たとえば、証券会社では上場株式を取り扱っているが、銀行で株式は売買できない。株式も、国内株しか取り扱っていない証券会社もあれば、外国株まで取引できる証券会社もある。投資信託は銀行でも販売しているが、取り扱っている商品は銀行によって違う。
また、NISAの対象商品には「制限」があり、銀行の定期預金や、公社債投資信託やマネーマネジメントファンド(MMF)、外国為替証拠金(FX)取引、金投資や商品先物取引などには使えない。
さらには金融機関ごとで投資にかかる手数料も異なる。一般には、銀行などよりもインターネット専業証券の手数料のほうが安く設定されている。
使い勝手も悪い。いま保有している株式や投資信託には適用されないし、たとえば2014年1月に100万円で株式を買って6月に売却した場合でも、年内はもうNISA口座を使えない。14年に50万円だけNISA口座を利用して、残り50万円を翌年に繰り越そうとしても認められない。2015年に新たに100万円の枠ができるだけ。複数の銘柄を繰り返し売買するような使い方(再投資)もできないので、「積極投資」には不向きなようだ。
現在、どの金融機関もNISAキャンペーンを展開。現金までプレゼントして「おトク」を演出しているが、よく調べもせずに誘われるがまま飛びつくと、買いたい金融商品がない、取引手数料も高い、といったこともあり得る。
しかも、口座はいったん作成すると、開設後4年間は他の金融機関に変更することができないので、「入り口」でつまずくと投資の機会を逃すなど、取り返しがつかなくなることもある。
NISAでなければ、税率は現行の2倍になる
株式投資などで得た利益に税金がかからないのはうれしい。株式の配当金や投資信託の分配金は5年間、毎年投資額(1年間上限100万円)の数%程度が非課税になる。株式などを売却した際に得られる譲渡益では、場合によっては2倍を超えて殖えることもあるので、「NISA」による非課税効果はさらに大きい。
そもそも、NISA導入のきっかけは増税だ。現行、譲渡益や配当金には10.147%の税金がかかっているが、それが2014年からは約2倍の20.315%になるのだから、個人投資家が「使いたくなる」のも無理はない。
とはいえ、やはりウラもある。株式や投資信託は元本割れもあり得るリスク商品なので、儲かるときがあれば、損することもある。通常であれば、たとえばA株で200万円の利益を得て、B株で100万円を損失した場合、A株とB株を合算(損益通算)して100万円分の利益に課税される。
ところが、NISA口座ではそれが認められていない。しかも、NISA口座で保有している株式と他の口座で保有している株式が合算できないばかりか、NISA口座内の株式のあいだでも損益通算できないのだ。
もちろん、3年間の損失繰り越しもできない。