法人税の実効税率を引き下げ 大企業優遇か、賃上げに結びつくのか

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   安倍晋三首相が2014年4月から予定通り消費税率を8%に引き上げると表明したことで、家計に与える影響が懸念されている。とりわけ、首相が復興特別法人税を2013年度で廃止するとともに、法人税の実効税率を引き下げる方向で見直す考えを表明したことで、「政府が負担を消費者に押し付け、大企業ばかりを優遇するのはおかしい」との批判が挙がっている。

   「法人税率を引き下げても、企業は内部留保を増やすだけで、労働者の賃金は上がらない」という論法だ。一方、多くのエコノミストは「法人税減税は企業の最終利益を増やすなど、家計にも恩恵をもたらす」と反論する。法人税率引き下げが果たして賃上げに結びつくのか、年末にかけ論議を呼びそうだ。

企業の負担は約9000億円軽減

   安倍首相は消費税率引き上げの決断に合わせ、東日本大震災の復興財源に充てる復興特別法人税を2013年度までで廃止するとともに、国際的に高いとされる法人税の実効税率についても見直す出す考えを示した。復興特別法人税の廃止で企業の負担は約9000億円軽減されるほか、同税の上乗せ分を含む現在の実効税率(38.01%)がさらに引き下げられれば、企業の税負担は1%当たり約4000億円軽くなるという。

   安倍首相は、NHKの報道番組で「法人税減税、投資減税をすれば、私たちはデフレ脱却に向かう環境を作ることができる。この政策をやっていけば確実に効いていくと思う」と強調した。

エコノミストの間では、効果を認める声は多い

   首相が法人税率を引き下げ、企業の負担を軽くしようとする狙いの一つは賃上げにある。エコノミストの間では、その効果を認める声は多い。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「法人税減税が家計に全く恩恵をもたらさないかというと、そうではない」と話す。「復興特別法人税減税は企業の当期利益を増やし、配当金額を増やす。間接的に家計への配当還元額を増やすと期待され、個人消費には約700億円のプラス効果になる」という。熊野氏は「消費増税の痛みを緩和するために公共事業を積み増すより、法人税減税を起点にして、雇用・所得、設備投資を増やす方が有効だ」と指摘する。大和総研の斉藤勉エコノミストも「法人税減税は製造業の生産拠点が海外に移転することを食い止めるなど、有効な効果がある。実効税率を10%引き下げることができれば、国内生産は4.7兆円程度増加する」と主張する。

   ただ、国民の消費税増税による負担増は相当な額にのぼる。大和総研の試算では、年収500万円の会社員と専業主婦の妻、小学生の子供2人の世帯で、消費税引き上げに伴う負担増は年間6万7000円。仮に負担増分を穴埋めして家計が経済成長を実感するには、年率3%の賃上げが必要という。

大手金融機関が20年近く納税していなかった例も

   法人税減税の効果は限られるとの指摘もある。国税庁によると、2011年度に法人税を納めている企業は全体の27.7%にすぎない。各種の優遇措置で税金を納めていない7割には、法人税減税をしても恩恵は及ばないのだ。この優遇の中には過去の損失を何年間も持ち越せる制度があり、実際、1990年代の金融危機で巨額の損失を計上した大手金融機関が、経営が立ち直った後も最近まで20年近く納税していなかったという例もある。「法人税率を引き下げても、メリットがあるのは一部の大企業など中心。その大企業も内部留保を増やすだけで、中小企業など多くの労働者の賃上げには結びつかない」という批判は多い。法人税率を下げるにしても、国民が納得できる課税ルールの見直しが必要との声は根強く、自民党税制調査会などにも、減税分が賃上げや設備投資に向かうよう企業への何らかの規制が必要との声がくすぶる。

   法人税率引き下げの具体的議論は、年末にかけて自民党税調などを舞台に展開される。国民にどれだけ「納得感」をもたせられるか、行方が注目される。

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