原発事故で汚染された廃棄物の最終処分をめぐる議論が迷走を続けている。政府は、廃棄物が発生した都県で最終処理を進める方針だが、処分場建設は難航している。
そのため、廃棄物を事故が起きた福島県に集約すべきだとの意見も出ている。だが、そのような提案、意見が出るたびに、述べた人に非難が集中するという状態が繰り返されている。
13万2738トンのうち82%が福島で発生
問題とされているのは「指定廃棄物」と呼ばれる廃棄物で、放射性セシウム濃度が1キログラムあたり8000ベクレルを超えるものを指す。焼却灰、下水処理場などの汚泥、汚染された稲わらが多い。13年8月末時点で、11都県で13万2738トン発生しており、そのうち82%にあたる10万8301トンが福島県で発生している。
12年1月に施行された放射性物質汚染対処特措法では、指定廃棄物の処理は国が責任を持って行うことになっており、廃棄物が発生した都県内で行う方針。最終処分場が足らない宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の5県については、政府が1か所ずつ建設する。民主党政権時代の12年9月には栃木県矢板市と茨城県高萩市が候補地に選ばれたが、両自治体は猛反発。その結果、政権交代後の13年2月に政府は方針を撤回して選定をやり直すことになった。10月4日に開かれた環境省の有識者会議では、住宅地からの距離など候補地を選定するための評価基準が固まったものの、まだ具体的な候補地の名前は聞こえてこない。
一般論として「発生物責任の観点から、東京電力の敷地内で管理したらどうか」
そこで噴き出すのが「福島集約論」だ。桜田義孝・文部科学副大臣は、13年10月5日に千葉県野田市で開かれた「東葛行政懇談会」の会合で、この論を披露したようだ。会合には県北西部の自治体の市長、県選出の国会議員などが出席しており、早期の最終処分を求める声があがったという。桜田氏の正確な発言内容は不明だが、発言を報じる記事によると、
「原発事故で福島には人が住めなくなった所がある。そういう所に置かせてもらったらいい。みなさん、どうですか」(朝日新聞)
「原発事故で人の住めなくなった福島の東京電力の施設に置けばいい」(共同通信)
と発言したという。「住めなくなった」が係る名詞が、朝日の記事では福島そのものだと読めるのに対して、共同記事では「福島の東京電力の施設」と限定的に読める。だが、「人が住めなくなった福島」といった理解をした人も多かったようで、発言に対する批判が相次いだ。
菅義偉官房長官が10月7日午前の記者会見で明らかにしたところによると、桜田氏は、
「一般論として、発生物責任の観点から、東京電力の敷地内で管理したらどうか、という意見もある。そういう趣旨で発言した」
と釈明したが、菅長官は
「全体の発言として誤解を与える発言は副大臣として慎むべき。慎重に行うべき」
と口頭で注意したという。
下村博文文科相も、翌10月8日の会見で
「福島の人たちの心情を十分に理解していない、思っていない発言だということで、私の方から厳重に注意した」
と発言を批判した。
環境省「福島県にこれ以上の負担をさらに強いることは到底理解が得られない」
だが、同様の議論は、福島県内でも出ている。9月26日の福島県議会の代表質問で、ふくしま未来ネットワーク会長の高野光二議員は、東京電力福島第1原発の周辺に最終処分場を建設すべきだと主張した。この発言に対して、原子力発電所所在町協議会は10月7日に「被災者の苦しい状況や切なる願いを無視した発言」などとする抗議文を手渡している。
環境省のサイトでは、この「福島集約論」については
「福島県においても、福島県内の指定廃棄物等の処理のため、地元との調整を実施しています。地域による帰還の差異はあるものの、現在避難されている多くの方が帰還を望んでいる中、福島県にこれ以上の負担をさらに強いることは到底理解が得られない状況です」
と、実現性に乏しいと説明している。