プロ入りしたときの大騒ぎがウソのようである。日本ハムの斎藤佑樹はテスト登板で結果を出すことができなかった。まさに投手生命のピンチ。そこで野手として再出発、との声も……。
約1年ぶりの一軍登板もメッタ打ち
だれもが「うーん…」と言って下を向いたことだろう。2013年10月2日、362日ぶりに一軍のマウンドに立ったのだが、内容は評価に値しないものだった。5回途中でノックアウト。打者23人に対し、被安打5、四死球6、自責点6。暴投もあった。
「自分のなかでは、投げることができてよかった」
斎藤の試合後の話だ。肩を痛めてずっと二軍で調整してきた。夏からピッチングを本格的に始め、二軍戦に登板するなど着実にスケジュールをこなし、その回復ぶりを見るテスト登板だった。来シーズンの使い方を首脳陣が判断するわけである。
「よしっ」と思った首脳はいなかっただろう。というのはフォームが悪く、しっかりとした球がいかない。球威とか変化球のキレは久しぶりの登板だから二の次にしても、来年に期待できる形になっていなかった。一時期、甲子園で優勝したときの早実時代のフォームに戻すことも考えたというから、かなり深刻な状況に追い込まれていた。
「野球を辞めようかとも思った」
そう口にしたこともあった。肩の故障はそれほどのショックで、手術も選択肢に入っていた。
そんなころ、取材に来るメディアは連勝街道をばく進中の田中将大(楽天)に対する感想ばかりだったという。かつてのライバルは遙か彼方である。しかし、斎藤は田中のことになると、弱音を吐かない。