尖閣諸島海域で、「無人機」をてこに中国側が日本への圧迫を強めている。
「もし我々の無人機を日本が撃墜すれば、すなわち戦闘行動とみなし、ただちに日本の航空機をすべて撃ち落とすだろう」
中国共産党機関紙・人民日報ウェブ版は2013年9月24日、軍事科学院研究員・杜文竜大佐によるこんな談話を掲載した。これを筆頭に、中国紙はこぞって対日強硬論をあおる。
防衛省も「撃墜やむなし」方針
無人機の外見は「のっぺらぼう」を思い起こさせる。パイロットを乗せないため、窓が一切付いていないからだ。
そんな不気味な飛行機が、9月9日尖閣上空に出現した。日本の防空識別圏に飛来したこの白い機体は、中国の最新無人偵察機「BZK-005」と見られている。
無人機は、中国が力を入れて開発を進める兵器の1つだ。米国の模倣も少なくないが、すでに米国との差を詰めていると目され、米国メディアも危機感を募らせる。今回尖閣付近に現れたと見られるBZK-005も、米国が擁する無人機「プレデター」に匹敵するスペックを標榜する。
無人機は、通常の有人機に対するような退去要請や警告に文字通り「聞く耳を持たない」。小野寺五典防衛相は「手の内を明らかにすることになりますので」(1日の会見)と明言を避けたものの、防衛省は無人機向けに「撃墜やむなし」の新方針を策定すると見られている。さらに14年春以降は、米国製の無人偵察機「グローバルホーク」も導入予定だ。
「中国は他国を侵犯しない。そして尖閣は我が領土」
こうした防衛省の反応が報じられると、中国側は青筋を立てて反発し始めた。外交部の洪磊報道官が「中国には釣魚島(尖閣諸島)の領土主権を守る決意と能力がある」と表明したのを始め、国防部幹部も日本の対応を「緊張状態をでっちあげている」と批判した上で、「中国は他国の領空を侵犯するようなことはない。そして、釣魚島上空は我らが領空だ」と言明する。
「お上」のこうした意向を受け、メディアはさらに攻勢をかけている。冒頭に挙げた人民日報の記事で杜大佐は、日本が尖閣周辺に装備を強化したグローバルホークを配備する可能性を指摘、「日本侮りがたし」との見解を示しつつも、無人機が撃墜されれば猛反撃に出ると語る。こうなってくれば、もはや「戦争」だ。
中国の望みは世界初の「無人機戦争」?
さらに9月30日の人民日報ウェブ版は、尖閣上空で近い将来「無人機同士の空戦」が起こる可能性まで指摘している。もし現実になれば「世界初」だ。党機関紙とあってさすがにその書きぶりは多少抑制的だが、洛陽晩報などは、「史上初の『無人機戦争』、中国の準備は万全か」と題して日中無人機戦争をシミュレート、中国側の無人機がグローバルホークなどに「完勝」していると結論付けた。その他のメディアでも、
「日本があおる『無人機大戦』」「挑発の果てに自滅する日本」(財訊)
「無人機を飛ばしまくれば、日本のF15は疲弊して廃棄処分」(環球時報)
といった見出しが並ぶ。そこには、まるで戦争を「期待」しているような節さえ見え隠れする。
「日本、そして米国の出方をうかがっている」
中国軍事・外交、東アジア安全保障を専門とする、霞山会理事・研究主幹の阿部純一氏は一連の動きと報道について、「中国は日本の決断力を試そうとしている」と分析する。
「今回の無人機は、中央軍事委員会直属の総参謀部第2部(情報部)に所属しており、その行動は習近平国家主席も当然承知済み。(無人機を飛ばすことで)日本、そして米国の出方をうかがっている」
一方で阿部氏は、中国が「先に手を出したのは日本」という口実を狙っていると見る。無人機撃墜に対し直ちに中国側が総力を挙げて反撃――とまでは行かないだろう、としつつ、日本による積極的な対応には否定的だ。
「実際のところ、無人偵察機が尖閣上空に入ったところで、特に施設もない尖閣では何の軍事機密を取られるわけでもない。むしろ日本としては中国側が無人機をどう運用するかを観察するとともに、侵犯の事実を国際社会に大々的にアピールすべき。『撃墜』はその反応次第では」