米国の新会計年度予算(2013年10月~14年9月)が成立に至らず、一部の米連邦政府機関の閉鎖が始まった。閉鎖は1996年(26日間)以来17年ぶりで、政府職員の一時帰休(レイオフ)は80万人を超える見通し。与野党間が予算成立に向け歩み寄る機運はなお乏しく、政府機関再開の見通しは立っていない。米財政問題の"本丸"ともいえる債務上限引き上げのタイムリミットも17日に迫り、世界経済の波乱要因として世界の視線が米議会の動向に集中している。
本当に問題なのは「債務上限」
国防や治安、空港の航空管制業務、医療など重要な業務は継続されるものの、10月1日朝(日本時間同日夜)からは、ニューヨークの「自由の女神」など全米の401か所の国立公園や博物館などが早くも閉鎖。退役軍人向けの相談業務や税の監査なども休止した。国防総省でも「文民」の約半数に当たる約40万人が一時帰休。米航空宇宙局(NASA)や米環境保護局(EPA)では職員の9割以上が対象になる。
ここまでの事態を招いたのは、米議会の「ねじれ」が原因。上院は与党民主党が多数を占める一方、下院は野党共和党が多数を占める。この下院が、オバマ大統領が推進する医療保険改革法(オバマケア)の延期や見直しを予算成立の条件とした。既に法律が成立し、10月から施行する同法に、土壇場で共和党の保守派が予算面で横やりを入れた形だ。
これには世論の批判も強く、オバマ大統領も「脅しに屈しない」と強気だが、政府機関の閉鎖が長期化すれば政権側に批判の矛先が向くのは必至。このため、今のところ落とし所は見えていないものの、市場では「さすがに暫定予算では遠からず妥協が成立するのではないか」(大手証券)とみる向きが多いようだ。
ただ、暫定予算は、米国財政をめぐる争いの"前座"にすぎず、「本当に問題なのは債務上限」(シンクタンク)。米国の連邦政府は債務の上限を法律で決められていて、その額は16兆7000億ドル(約1650兆円)。現在、このほぼ限界に接近し、財務省は予算の範囲内のやり繰りでしのいでいるが、これにも限界があり、ルー財務長官によると、上限に達するタイムリミットは「10月17日」というのだ。
世界経済「腰折れ」の不安
これが現実になると、過去に発行した米国債の利払いが滞る恐れが出てくる。つまり、デフォルト(債務不履行)ということだ。世界で最も信用度が高い米国債の信認が揺らげば、市場は大混乱に陥り、金融不安を招かないとも限らない。せっかく回復してきた世界経済も腰を折られる可能性がある。
市場も動揺している。ニューヨーク市場のダウ工業株30種平均は9月30日まで直近の最高値(9月18日)から計550ドル下げた。10月1日は民主・共和両党による歩み寄りへの期待が浮上し、閉鎖は長引かないとの見方が広がり、前日比62ドル高と、やや戻したが、先行き不透明感はぬぐえない。日本では、日経平均株価は9月30日以降、下がり続け、10月4日にはいったん1万4000円を割り込んだ。円相場は9月30日から1ドル=97円台と1カ月ぶりの円高水準になっている。
さらに深刻なのは新興国だ。米国の金融緩和の終了が近いとの見方から資金流出=通貨安にさいなまれている国も多いところに、米国債市場など市場の動揺が重なれば、大きな混乱に陥る危険もある。新興国の不振は日本など先進国にブーメランのように跳ね返ってくる。
1996年に政府機関が閉鎖された時は、クリントン大統領と共和党のギングリッジ下院議長(いずれも当時)の間で、最終的に財政再建の合意が成立し、その後の財政黒字化につながった。2011年に債務上限問題で与野党が対立した時も、株価の急落、国債格付け引き下げなどへの危機感からギリギリ妥協が成立した。
今回は政権の最大の目玉政策であるオバマケアをめぐる対立であり、特に下院共和党では「ティーパーティー」の支援を受ける保守強硬派の議員が多いとあって、2014年の中間選挙をにらみ、妥協に至るのは容易ではないとの見方が強く、しばらく世界市場の最大の波乱要素になりそうだ。