東京都足立区の路上で女性を襲った男がナイフを奪われて太ももを刺され、死亡したとされる事件は、女性の行為が本当なら正当防衛になるのかと、ネット上で関心を集めている。
「大声を出したら殺す」。10代女性の話として報じられたところでは、この女性は2013年10月3日午後7時半ごろ、50代ぐらいの見知らぬ男からこう脅されて果物ナイフを突きつけられた。荒川沿いの歩道をジョギングしていたときだった。
女性を傷害致死の疑いで書類送検するというが…
女性は、男からキスされたり、体を触られたりしたが、男が地面にナイフを置いたのに気付いた。そこで、すきを見てナイフを奪い、男の右太ももを刺して逃げた。そして、通りがかった人に助けを求めたというのだ。
この通行人が110番通報し、警視庁の西新井署員が駆け付けたところ、男は近くの路上で太もも付近から大量に出血し、意識を失っていた。病院に搬送されたものの、間もなく死亡が確認された。
警視庁は、容疑者死亡のまま、強姦未遂などの疑いで男を書類送検する方針だという。男を刺した女性については、傷害致死の疑いで書類送検するというが、正当防衛だとみなされる可能性があると報じられている。
刑法36条によると、もし正当防衛が認められたときは、その行為は罰せられない。しかし、行き過ぎた防衛行為だとみなされれば、刑罰が軽減されたり免除されたりもするが、過剰防衛として罪に問われることになる。
女性が話した行為については、ネット上で議論が盛り上がっており、正当防衛ではないかとの声が多い。「太ももならセーフ」「これで過剰防衛云々言われたら、女性はどうしたらいいっていうのか」といった反応だ。
もっとも、異論も出ており、「防衛手段がどうみても過剰だろう」「ナイフを手放していたんだからまさにこれ」といった声があった。
識者「検察は正当防衛を認めて不起訴にするはず」
過去には、相手が死亡したものの、正当防衛だとされたケースがある。
千葉県船橋市のJR総武線・西船橋駅で1986年、酒に酔って絡んできた男性を女性が一度突き飛ばしたところ、男性がホーム下に転落し、電車にはねられて死亡する事件があった。結果は重大だったが、転落死は想定外だったとして、千葉地裁が翌年、正当防衛を認めて無罪判決を出し、そのまま確定している。
今回のケースでも、太ももにナイフを何度も刺したのではなく、死ぬことも想定外だったとみなされれば、正当防衛が認められるかもしれない。
もっとも、女性が通行人に助けを求めたのが2時間半後で、その間の行動などがまだはっきりせず、目撃情報なども報じられていないため、不透明な要素は多く残っている。
板倉宏日大名誉教授(刑法)は、女性が話した行為について、こう言う。
「ナイフで刺すなど過剰防衛かもしれないところがあり、難しいところですが、ナイフで脅されたというのなら、正当防衛ともみなされるのではないかと思います」
女性が素手で反撃に出れば刺されるかもしれず、たとえ男性がナイフを使いそうでなくても、女性の力ではナイフでなければ立ち向かえないことも考慮されるかもしれないと言う。
女性が書類送検されても、検察は、正当防衛と認めて不起訴処分にするのではないかとみている。