経営再建中の三菱自動車が今期(2014年3月期)中に2000億円規模の公募増資を実施する方向で調整に入った。調達した資金で、経営を支えてきた三菱グループの保有する約3800億円の優先株の大半を買い入れて消却することにより、財務体質は改善され、経営再建が大きく前進する。
三菱自はグループの実質的な管理下から抜け出し、今期末には16年ぶりに一般株主への配当を復活させて「普通の会社」に生まれ変わる考えだ。
14年3月期の純利益は500億円と過去最高見込む
三菱自は2000年にリコール(回収・無償修理)隠しが発覚したのをきっかけに経営危機に陥った。2004年には新たなリコール隠しが分かり、独ダイムラークライスラー(現ダイムラー)の支援が打ち切られ、三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行のグループ御三家などが巨額の優先株を引き受けて経営を支えてきた。
三菱自の2013年3月期連結決算は東南アジアでの好調な販売を受け、3期連続で増益となり、2014年3月期の純利益は500億円と過去最高益を見込むまでに回復した。
8月には資本金などを取り崩し約9226億円の累積損失も解消。好調な業績と財務内容の改善を背景に、着々と優先株の処理に向けた動きを速めている。
優先株とは議決権がない代わり、配当が普通株より優先されるという性格を持つ。三菱自は経営不振で優先株への配当も行っていないが、配当を実施すれば負担は約190億円にのぼるだけに、復配の障害になっている。
しかし、業績好調とはいっても3800億円の優先株を自力で買い入れて消却する余裕までは今の三菱自にはない。そこで公募増資を実施し、調達資金を優先株処理に充てる考えだ。
「2014年6月」が優先株処理にメドをつけるタイムリミット
ただし、三菱御三家が優先株の買い入れ消却に応じる場合、割安価格での買い入れに応じて支援することになるとされ、御三家に計1000億円超の損失が生じる可能性がある。このため、三菱グループ内には「銀行が勝手に描いたシナリオ。本決まりではない」(グループ幹部)との声もあり、必ずしも足並みがそろっているわけではない。
それでも、2014年6月には優先株の一部が普通株に強制的に転換する期限を迎え、優先株を普通株に転換する時期を決める権利が保有者から三菱自側に移ってしまう。このため、この「2014年6月」が優先株処理にメドをつけるタイムリミットになる。
それだけに「今はグループ内の綱引きが続いているだけ。結局はこの線(2000億円規模の増資)で落ち着く」と見る向きが業界内には多く、年度内には公募増資が実施される可能性が強まっている。
一方、三菱自の2012年度の世界販売台数は約100万台と、トヨタ自動車の10分の1程度。グローバル競争が激化する自動車業界で、単独で競争に打ち勝つには限界があるとの指摘は少なくない。
三菱グループ内でも「経営再建後は生き残りのためには他社と提携するしかない」と他メーカーとの提携の重要性が認識されている。
優先株の存在が、他社との提携の障害でもあっただけに、公募増資によって優先株処理が進めば、新たな提携に向けた動きも加速しそうだ。