東京国立博物館(東京都台東区)で始まった朝鮮王朝時代をテーマにした展示をめぐり、韓国メディアが「盗難品と推定される」と相次いで指摘し、波紋が広がっている。展示されている文化財のうち、半分が民間のコレクションから寄贈を受けたものだ。
韓国の一部国会議員は、このコレクションがどのような経緯で日本に渡ったか解明を求める国会決議の採択を働きかけたい考えだ。
1980年代に日本政府に寄贈される
韓国側が問題視しているのは、2013年10月1日に博物館の「東洋館」で展示が始まった「朝鮮時代の美術」。博物館のウェブサイト上には、
「朝鮮王朝時代の両班階級の人々の生活文化を紹介します。文人の書斎、応接間である舎廊房を再現する家具や文房具、文人の衣裳の展示のほか、朝鮮王室(1897年以降、韓国皇室)に関連すると思われる甲冑や印、国書を収めた朱漆の箱を展示します」
と説明されている。展示されている20点のうち10点に「小倉コレクション保存会寄贈」とある。
この「小倉コレクション」は日本の植民地統治時代に「南鮮合同電気」の社長などを務めた小倉武之助氏(1870~1964)が朝鮮半島全域で収集したもので、死後の80年代になって「財団法人小倉コレクション保存会」が約1000点を日本政府に寄贈し、国立博物館が所蔵することになった。今回の展示では、そのほんの一部が公開されたという訳だ。
市民団体は博物館には接触していない
10月1日、韓国文化財の返還運動を展開する市民団体の代表が博物館を訪問。展示されている小倉コレクションには、朝鮮王朝第26代王の高宗(コジョン)が使ったとされる甲冑が含まれているというのが市民団体側の主張で、聯合ニュースによると、市民団体の代表は、
「かぶととよろいについて『朝鮮王室のものだという博物館の確認を受けた。年代などから高宗が使っていたものに間違いない』」
と述べ、展示品が盗難品だとみている。さらに、同行した韓国の国会議員は、コレクションの入手経路を明らかにするように求める国会決議の採択を進める考えを明らかにしている。
だが、博物館の総務部では、
「一団が来館したことは承知しているが、接触していない」
と、韓国側の報道には事実誤認があるとみている。博物館の説明によると、一団は特に展示品に関する説明を求めたり、「韓国に返すべきだ」といった抗議や要求をした訳でもないようだ。
また、盗難品が含まれている可能性については、博物館側は、
「小倉コレクションがどのように入手されたかについては承知しておらず、質問にはお答えできない」
と述べるにとどまった。
日韓基本条約締結時には引き渡し対象から外れる
小倉コレクションをめぐる日韓の綱引きには、長い歴史がある。1965年に結ばれた日韓基本条約をめぐる交渉で、韓国側は朝鮮半島から日本に渡った文化財の返還を要求。条約締結後、日本政府は「日本にある韓国由来の文化財を韓国に返還する義務はない」という立場を取る一方、「日韓間の友好関係の増進を考慮」した結果として韓国由来の国有文化財1321点を韓国側に「贈与」している。ただし、小倉コレクションに関しては、民間が所有していることを理由に引き渡しの対象から外れていた。
国会でも論点になったことがある。07年4月の衆院文部科学委員会では、共産党の石井郁子衆院議員(当時)が、小倉コレクションを含む韓国由来の文化財の返還を主張した。伊吹文明文科相(同)の答弁では、
「韓国あるいは韓半島由来の文化財がどういう形で日本に来ているかということについては、正常な商取引によって来ているものもあれば、あるいは、日本として韓国に対し贖罪的な意識を持たねばならないような形で日本に来たものもあるかもわかりません、それは」
と盗難品が含まれている可能性を示唆している。ただし、返還については、
「法律上は、国際法上の決着はついているという問題」
「少しそれ(法的問題と道義的問題)を先生、余り混同してやってしまうと、国と国との関係はかえって情緒的になるんじゃないでしょうか」
と否定的だった。